「期限は1年間」
私の隣にはいつもブン太と仁王がいる。それはもう慣れっこだからうだうだ言ってくる人はいない。たまーに2人のどちらかのことを好きだという女の子に呼び出されるくらいだ。呼び出しの内容もかわいいもので、ブン太(もしくは仁王)のことが好きではないのならもう解放してあげてくださいとか、そんな感じ。決して喧嘩腰ではなく、諭すように言われるのだ。
解放もなにも、私が縛り付けているわけではないのだけれど、そんなことは確かに彼女たちには関係ない。私が離れさえすればいいのだから。
わかっている、わかっているから何度も突き放すのだが、彼らには軽くあしらわれてしまう。ずっと付きまとってくるのだ。
「好きって言ってくれる人のことを大切にしたらいいのに」
「いやいや、それをお前が言うか?」
「俺達のことももっと大切にしてくれてもいいんじゃが」
「…あー、確かに。私が言えたことじゃあないね」
昼休み、久々に可愛い女の子に呼び出されたかと思えば、丸井くんから離れてくださいと言われたもんだから謝ってなあなあにして終わらせ、誰もいない部室でボーッとしていた。
確かにあの2人の気持ちを無視してなんだかんだと現状を強くどうにかしようとも思っていない私はダメな女だ。
そんなことを考えていると、私が教室にいない事に気付いた噂の2人がやってきた。まあ私が行くところといえば限られているだろうしね。
それで、上記の会話となったのだ。そもそも、どうして彼らはこんなに私のことを好いていてくれるのだろうか。そんなこと、自分から聞くのもおこがましい。いつかきける時がくるのかな。
「そういえばお昼まだだった。2人は食べた?」
「いや、みお探してたし。とりあえず持ってはきたけど」
「じゃあここで食べちゃお。部室でっていうのも味気ないけど」
「…俺は今日は食欲ないし、お茶だけでじゅーぶんぜよ」
「え、そんなんじゃダメよ仁王。私今日サンドイッチつくってきたから1つあげる。これなら軽く食べられるでしょ」
「え〜!じゃあ俺にもくれよィ!みおには俺の焼きそばパンわけてやるからよ」
「はいはい」
サンドイッチを2人に渡し、ブン太はガツガツと、仁王はもそもそと食べだした。
まるで似ていないこの2人はなかなかに仲が良い。見ているだけならとても微笑ましいものだ。
「ね、ブン太と仁王てなんでなかよくなったの?」
「なんだよ、急に。…やっぱテニスきっかけじゃねえの?あとは赤也の面倒みたりしてるうちに自然にな」
「そうじゃな。ブンちゃんとは長い仲ナリ」
「ふーん」
やべ、お茶忘れたと言うブン太に自分のをわけてあげている仁王。
私が2人の気持ちに応えられないのは、この2人の仲をさいてしまうことに繋がるかもしれないという恐怖も多少はあるのかもしれない。
部室のベンチに腰掛け、足をプラプラと動かしてみるとこのままじゃダメだよなって当たり前の気持ちが大きくなった。そろそろ2人と向き合わなければいけない。
「あのさ、2人は私のことを好きだって言ってくれるけど、私がどっちを選んだとしても、どっちを選ばなかったとしても問題ないの?」
「…なんだよ急に」
「いや、そこが少しもやっとするなぁと思いまして」
「まぁそりゃ、お前が仁王と付き合うってなったら悲しいけど、俺たち正々堂々気持ち伝えてるし、ムカつくとかそれで仲悪くなるとかはねぇんじゃねぇの?」
「…俺はノーコメント」
「え、仁王。結果はどうあれ仲良くしようぜ」
「ジョーダン。俺もブン太と同じ気持ちぜよ」
「そっか、ごめんね変なこときいて。別にどっちが好きとか今はまだないから」
「ほんっとお前もはっきり言ってくれるよな!ま、もう少し待てるから問題ないぜ」
ウインクして言うブン太は少しだけだけど、悲しそうに見えた気がした。
仁王はわからない。表情読めないし。
申し訳ないことをしているのはわかっているから、早くどうにかしなきゃいけない。
自分のためにも、2人のためにも、決めておこう。
「私さ、卒業までにはちゃんと答えだすよ。さっきも言ったように今はわからないけど、2人の気持ちを大切にしたいから。恋が何かわからないなんて言って、逃げてちゃダメだって思ったから」
「…お、おう」
「突然じゃな」
「貴方たちだって1年のとき突然告白してきたんだからお互いさまでしょ」
そう言うと2人は嬉しそうに笑った。
今まで逃げていた分、この1年間はしっかりと考えよう。
私がどちらを選んでも選ばなくても、高校生活は幸せだったと笑えるように。
卒業まで、残り11ヶ月
『期限は1年間』
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