「私たちの紅白戦」


5月。天気がよく過ごしやすい気候である。それだから体育大会もこの時期にあるのだろう。うちの学校も例外ではない。

正直なところ、私はそこまで運動神経がよくない。身体を動かすのは嫌いではないが、なにか秀でているようなものはなにもない。
それでもワガママを言って1つも競技に参加しないということが許される訳はないのだ。

できればあまり注目されず、団体競技である方がいい。例えば玉入れ。うん、玉入れにしよう。


自習の時間を使って体育大会当日の参加種目を挙手制で決定していっているわけだが、やはり私と同じ考えの人たちが多いのか中々リレーや長距離走の選手枠が埋まらない。仁王やブン太は全国区のテニスプレイヤーということもあり、問答無用でその枠に入れられる。大体1人2種目くらいになるはずだが、もうこの2人は3種目めだ。


「別にテニス以外のスポーツはそんなに得意なわけじゃねぇんだけど!」

「右に同じ」


文句を言っているがクラス長は無視して話を進めている。こういうとき全国レベルの部活に所属しているのは少しだけマイナスなのかもしれない。
私はのんびりと気楽な種目の時に手を挙げよう。



* * *



「最悪だ…」

「ま、まぁ元気出せよぃ」


なぜこうなってしまったのか。私は確かに玉入れと、もう一つ団体競技かつ目立たない綱引きに立候補した。のに!
希望者が多かったためじゃんけんで決めることになり、ことごとく負けてしまったのだ。なんたる誤算。それならば比較的やれそうな100メートル走を…!


ああ一歩遅い、既に枠は埋まっていた。


余っていたのは障害物競走と800メートル走。自動的にその種目の選手となってしまっていた。1番避けたかった2つである。


「2人はさ、種目多くて大変かもしれないけど運動神経はいい方じゃない。私はこの2つをやりきる自信がないよ」

「俺も800メートルでるし、がんばろうぜぃ」

「…はぁ、本当に嫌だ。注目されるし迷惑かけちゃう」


この2つは配点が大きい。足手まといになるのは嫌なのに。


「大丈夫じゃみお。結果がどうだったとしてもお前に文句言う奴はいないさ」

「なんでそんなこと言い切れるのよ」

「俺が言わせないから」

「は!?ずりぃ!俺だって言わせねーよ!」

「…はは、ありがと。ちょっと元気でた」


キザなことを涼しい顔で言い張った仁王に対抗し、ブン太もプリプリと怒りながら宣言してくれた。

2人は、私が落ち込んでいるとすぐに笑わせてくれる。
そういえば中学の時からそうだった。ずっと前から私は2人に甘えていたんだ。
ん?でもテニス部の人たちも皆案外私に甘いかもしれない。(精市はあまり該当しない)


今気付いたけどブン太と仁王の髪色は赤と白。体育大会の話をしてたからそう思うのだろうけど、同じクラスにいるのにまるで敵同士みたいだ。
そう考えるといつかその勝負に決着をつけるのは私なわけで。私たち3人にとっての紅白戦ははじまったばかり、今後どうなるのかは予想もつかない。



1年で答えを出すと言ったからには真面目に考えなければ。



でもとりあえずあと1年もあると自分に言い聞かせる。
今はちょっとでもまともな結果を残すにはどうすればいいのかで頭がいっぱいだから、紅白戦はほんの少しだけ休戦ってことに勝手にしておこう。2人には内緒でね。


『私たちの紅白戦』

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