喰うもの、喰われるもの

人間というものは食物連鎖の頂点にいるとずっと思っていた。何かを喰うことがあっても、喰われることはないのだとそう思っていた。とはいえ、それは人が住む世界の話だけであるという事はわかっている。お父様から聞いた話や、本で見た世界にはわたしの知らない世界が沢山存在している。そこには恐ろしい怪物がいて、人間が喰われる側に回ることがあるのだ。ハンターという役職に着けば、その未知の世界に行く許可も手に入るらしい。だけど、わたしはハンターというものにさほど興味はなかった。痛いことも怖いことも嫌だし、ハンターになればお金には困らないとも言うけれど、わたしは元より、お金になんか困ってないのだ。ハンターにならなければ、危険な場所に行かなければ普通は捕食される側に回ることなんて一生ないのだ。
しかし、わたしは今。捕食される側になってしまっている。

あの事件が起きて、わたしがゾルディック家に来てから一週間が経とうとしている。食事も寝床も全て用意されて生活には困っていないのだが、この家は表向きは暗殺一家と言われているので、食事すらも一苦労なのである。何も気にせず、彼らと同じ食事を口にしたら体調が物凄く悪くなった。まずは舌が痺れ、次に体の節々が痛み、最後に視界が歪み後で毒を盛られたのだと知った。だが、わたしは無駄に丈夫だったようで3~4時間ほど横になればけろっとしていた。普通の人間なら死ぬ可能性のある量だったらしく、キキョウさんが少し驚いていたのを覚えている。
食事に毒を盛る。にわかには信じがたい事だが、この家では普通らしくみんな何食わぬ顔で毒の入った食事を口にするのだ。暗殺業もやってれば恨まれる数も多い、死という概念に常に隣り合わせの彼らにとってわたしが体験している非日常は、彼らにとっては当たり前のことなのだ。此処に居る以上、わたしもその死の概念が付きまとうのだろうと、食事を食べて末恐ろしくなった。
毒を盛られた後、イルミさんは血の味が変わったらどうするんだよ。と少しだけイラついていて、毒が抜けたばかりだというのに容赦なく嚙みつかれては「あ、大丈夫そう。じゃ、いっか」と口の中で血の味を確かめながらそのまま部屋を出て行った。

一番驚いたのはわたしはイルミさんの都合でここに連れてこられたというのに彼の父であり、この家の主のシルバさんにここに居てもいいという許可をもらった事だった。正直追い出されると思っていたのに、彼が言うにはわたしの血液は吸血鬼にとって特別らしく、発する匂いも甘美だと言われた。とにかく、この血液のおかげでわたしはゾルディック家に居ることが許されているのだ。とはいえ、わたしは彼らにとっては完全に異物であり、ましてや吸血鬼ですらないただの人間。よく思わない人の方が明らかに多い。特にわたしはキキョウさんに毛嫌いされている。完全に無視。というか、ほぼ居ないもののような扱いを受けてた。それはそれで、嫌がらせを受けないので気が楽なのだが、時折突き刺さるような視線が痛かった。

「も、もう…やめ、…」
「まだ満足してないんだけど。ほら頑張って」

冒頭に戻るが、此処に来て一週間。イルミさんはほぼ毎日わたしの血を吸いに来る。わたしを自分の部屋に置いておいて、気まぐれに現れては噛みついて仕事だから、と去っていく。そんな感じだから貧血っぽくなってきては常に頭が痛い状態だった。今日は本当に駄目だ、頭に血が上らなくて気分が悪く、イルミさんの胸にそのまま倒れてしまった。

「は。気失ったの?…なにそれ弱すぎでしょ」

人間ってのは本当に脆いんだな…と顔色の悪いナマエをベッドに寝かせ、自分も当たり前のようにその隣りへと横になった。

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むにむに。