憎しみをすり潰したような夜

夢を見た、あの日。時間通りに使用人が迎えに来てくれて家に着いたら使用人が待っていて、わたしの持っていたバイオリンとコートを預かってくれる。そして、美味しいご飯をお母様とお父様の3人で楽しく食事をするの。何も、悪い事なんて起きないいつも通りの平和な夢。でも、ビデオテープが壊れたみたいにノイズが入り、お父様もお母様も血まみれになってそれで、それで。
あの男が、わたしに向かって得物を振り下ろす。

「っ、は……ゆめ…」

目を覚ますと、まだ夜明け前なのか部屋の中は真っ暗だった。携帯は壊されてしまった上に唯一この部屋にある時計も部屋が暗くては時刻は読み取れない。嫌な夢だった。変な汗をかいてしまって、気分が悪い。横に何か温もりを感じ取ると男が寝ているのに気付く。気付いたら隣で寝ている事は初めてではない。オレの部屋だからと当たり前のように隣へ横になられた事を指摘した際、「お前みたいな女に欲情するはずないだろ」とはっきり言われ、腹が立ったのは最近の事である。
彼は言った、仕事だから。お前の両親を殺したのだと。わたしの知らないところで父は相当に憎まれていたらしい。お父様は他の人間を踏み台にしてのし上がって来た沢山の恨みを買って頭に上り詰めた人間だった。もしこれが表社会の出来事ならわざわざ殺し屋を雇う事にはならないだろうが。父は裏社会の人間だ。父を憎む人達が大金を揃えて依頼したのだろう。だからって、父だけでなく母もそれでいて関係のない使用人まで見殺しにするなんて。
この男がいなかったら、両親は殺されずに済んだのだろうか。横で眠る彼の顔を見てふと思った。家族を殺しておきながら呑気な顔して眠っているのが憎い。こいつさえ、居なければこいつさえ。
気が付いたら彼の首に手を掛けていた。

「死ねばいいのに…」

そう、ぽつりと呟いては首を絞める前に彼の手がわたしの手首を掴み、強く握り締めた。あまりにも急な上に強い力で握り締められてわたしの力では振り解ける訳がない。ぎりぎりと手首が悲鳴を上げては痛くて、反射的に涙が出てきてしまう。

「いた、い…」
「そうだね、痛くしてるからね。オレの方殺そうとした?無理だよ、ナマエにオレは殺せない」
「そんなこと、分かってる…」
「分かってるなら、無駄な事するなよ…それに、オレがもし居なくてもどうせ他の家族が殺してたと思う」

全部分かってる。わたしが彼を殺そうとしたところで返り討ちに合うだけだという事も。彼がもし存在しなかったとしてもゾルディック家によって結局は両親は殺められていたかもしれない事も。悔しい。わたしは家族を奪われて、それでいて好き勝手に彼に血を奪われて仕返しの一つも出来やしないのだ。

「あんたなんて、嫌いよ」
「そ。オレもナマエの事なんてどうでもいいよ。お前のその血にしか興味ないし」

胸の中で黒いものがぞわぞわと纏わりつくような不快感があるのに目の前の彼は表情一つ変えず澄ました表情をしている。

「オレもう寝るから、おやすみ」

と腕を離されて呆気なくもう一度彼は眠りについてしまった。握られた手はじんじんと痛み、熱を持っている。どんだけ強い力で握ったんだろう。また、痕がついてしまったかもしれない。忘れよう、と彼に背を向けるようにしてわたしもきゅ、と目を閉じた。

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むにむに。