泡沫

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6.

 諸伏、降谷との邂逅から2ヶ月…蝉の声が響く季節がやってきた。この2ヶ月でなまえは随分と"情報屋"として名を上げて来た。
 そんななまえはとある一通のメールアドレスを前に、どう動くべきか悩んでいた。


(FBIからの接触…!)


 ある日、メールチェックをしていたら知っているー正確には、元の世界で見たことのあるー名前からの連絡がきていたので確認をしたところ記載されていた名前はジェイムズ・ブラックだった。
 そう、日本で活動するFBIのボスのような存在として登場していた彼だ。


 FBIから接触があった理由に心当たりはあった。
 アメリカで活動してるある団体が日本で悪事を働いている証拠を掴んだので、リークしたのだ。立て続けに3件…。
 その後様子を見ていると、早々に対処をしてくれたので一安心していた。正直言うと、FBIとのコネクションはとても欲していた。このままリークを続けてある程度信頼を得られたら協力関係を結べたら…と思っていたがこのタイミングでの接触は予想外だった。

(時期尚早な気はするけど、この機会を逃すのは惜しい…かな)

 恐らく、まだ情報屋としての実力を信頼されているわけではないだろう。だが、向こうから接触があったということは少なからず情報の正確性を認めてくれたと考えて良いだろう。
 場所と時間をこちらで指定して、ある条件も付けたうえでメールを送信した。 



******

カランカランッ

「いらっしゃいませ」
「待ち合わせだ。スコッチをロックで」


 カウンターに座っているなまえから少し離れたところに、一人の男性が来店した。彼はスコッチを頼むと一度スマホをチェックし、タバコに火をつけた。

(あ…赤井秀一…!!!!本物だ…え、若い!!!)

 なまえは横目で来た人物を確認し、心を落ち着かせるためにカクテルを一口飲んだ。

 ジェイムズに伝えた条件は"ジェイムス・ブラックが個人的に今度大仕事を任せたいと思っている捜査官"だった。
 うまくいけば赤井秀一が来るかな…と思っていたが本当に彼が来るとは…。まだ、現在だとFBIに入って間もない年齢のはず…。それでも、ジェイムズに認められ今後を期待されているとは、さすが将来の"シルバー・ブレッド"である。

 しかし、赤井が来たからと言ってすぐに接触するつもりはなかった。試すようで申し訳ないが、待たされたあと現れたこちらにどのような態度を取ってくるのか見させてもらう。

 新しいカクテルを頼み、飲み干したところで時計をチラリと見る。

(30分か…特に変わった行動はしないけど…)

 イライラしている様子もないし、手持無沙汰だからといって女性をナンパしたりすることもない。もとから軟派なイメージはなかったが、やはり仕事に忠実だと分かり安心した。


 そろそろ合図を送ろうか…でもその前にお手洗い…と席を立ったはいいが、トイレから出たところで若いチャラチャラした男性につかまってしまった。

「ねーいいじゃん、見てたけどずっとひとりだったじゃんー、俺と飲もうよー」
「嘘じゃなく、連れがいるので離していただけませんか。」
「嘘つきにはチューしちゃうぞー」
「っ離して…!」
「俺の女に何か用か」

 制圧することは簡単だが、なまえは今は一般人。ただの軟派相手を制圧して目立つことは避けたい。しかし、なかなかに力が強かったため簡単に振り払うこともできず困っていたところに聞こえた低く甘い声。

「あん? お前結構前に来てたけど彼女と一言も話してなかったじゃないか」
「そういうプレイでね。だが、お前みたいな男に触られたら俺も黙っちゃいられないさ。なぁ?」

 腰を引き寄せられ、髪に軽くキスをされながらそう問われコクコクとうなずく。

「ちっ期待させんなよなー」
(勝手に期待したのはあんたでしょーが!!)

 助けに入ってくれた彼ー赤井秀一ーの登場により、思ったよりあっさりと軟派男は引いてくれた。
 チラリ、と赤井を見上げて様子を伺う。それと同時に、モスグリーンの目がこちらを捉えた。

「ありがとう、ございます。」
「いや…構わん。女の一人飲みは気を付けた方がいいぞ。ああいう輩はどこにでもいる。」
「そう、ですね…少し油断してしまいました」
「まだ飲みたいようなら、席だけでも俺の横に移動しておけ。そうすればさっきのヤツはもう来ないだろう」
「それは…ありがたいですが、誰かと待ち合わせ…とかじゃないんですか?」
「まぁな…だが、待ちぼうけかもしれん。相手が来るまでの用心棒くらいにはなってやるさ」
「そうなの…それじゃ、お言葉に甘えます。」

 一緒に飲もう…ではなく席だけでも隣に…と言ってくれたところがとても好感をもてた。
 バーカウンターに戻り、赤井の隣に腰掛ける。席を立つ前にカクテルは飲み終わっていたため、新しいカクテルを頼もうと口を開く。

「ダイキリを……彼にも同じものを」

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