episode10
急に進路を変えたポーラータング号は、あっという間にシャボンディ諸島にたどり着いた。海軍を警戒して潜水していた期間があっただけで、そもそもの直線距離はそんなに離れていなかったみたいだ。周りの船員の話だと、今回の進路変更の目的は海賊の処刑を見ることらしい。
回ってきた新聞を読んだイッカクが、難しい顔をする。みんなの反応をみるに随分と有名な海賊の様だが、あいにくと長年外の情報から閉ざされていたせいで全くピンとこない。
「これは…荒れるね」
「どういうこと?」
「今回処刑されるエースって男はね、この海で最強と言われる四つの海賊のうちの一つに所属しているの」
「それって強い?」
「めちゃめちゃ強い」
「じゃあなんでエースって人は捕まったんだろ、その人も強い人なんだよね」
「さあね、どちらにせよ。エースの処刑を阻止するためにその海賊団がなんらかのアクションを起こすはずだよ」
「仲間を助けにくるってこと?」
「そういうこと」
この船のメンバーもそうだけど、海賊って意外と仲間意識が強いのかな?それとも、珍しい部類?なんとなくイメージだともっと利害関係とか、強さが全てとか、そう言う殺伐とした関係だと思っていたけど。でも、船の操舵なんかは協力しないとできないし、長いこと船の中にいたら仲間意識も芽生えるのは当然?
このエースって人は仲間が助けに来るくらいだからきっと仲間内でとても大事にされてるのかも。自分が海賊になったからか、なんとなくエースの処刑がうまくいかなければいいなと、そんなことを考えた。
◆◇◆
壇上に連れてこられたエースは、ボロボロで痛々しくて、それだけで胸がつかえた。貫禄のある海兵によって罪状が読み上げられる。エースを囲む周囲には威圧感のある海兵がそれを見守っていて、明らかに異質な格好の人たちもいて、それが三大将と七武海という特別な海賊なのだと教えてもらった。
「海賊王ゴールド・ロジャー…彼の息子だからその、エースって人は処刑されるの?こんな、民衆に中継までして、処刑をみせしめに?海軍のいう正義っていったいなに?」
映像電伝虫の中継に嫌悪感丸出しにしていると、横にいたシャチが宥めてくる。
「立場が変われば見方が変わる。正義は人の数だけあるからな」
海賊が怖くて夜も眠れない村があったとしたら、その村への気休めにはなるだろうが、エースが直接村を襲ったりしたわけでないのならなんの解決にもなりはしない。海賊はすべで無法者で、犯罪者。それは分かっているけれど。普通の人間の中にだって狡猾な人がいるし、海軍の中にだって非情な人もいるし、海賊の中にも温かい人がいる。
「…全然納得できない」
「する必要もねェよ」
私はまた苦々しい気持ちで映像に視線を戻した。目の前のスクリーンで始まった戦争は、想像をはるかに超えて壮絶を極めた。壮観にも見える白ひげ海賊団の大軍と、自然の摂理を無視した攻防の嵐。何より、エースの弟だと言っていきなり現れた麦わらのルフィとその一行は戦況をさらなる混乱へと巻き込んだ。
「あれが、麦わらのルフィ…」
「おーおー、あいつボロボロだなぁ、大丈夫か?」
シャチがそういうのも頷ける。エースもボロボロだったが、それを助けにきたというルフィもまたエース以上に満身創痍に見えた。ルフィが連れてきたのは仲間ではないのか、白ひげに攻撃を加えたと思ったら、海軍とも競り合っていて、各々が勝手な戦いを始めていた。戦況がどちらに傾いているのかわからなくなる。たった一人でボロボロになってまで家族を助けにきたルフィに、感情が揺さぶられる。私の家族はもういない。この先下手を打てば私も海軍に捕まって処刑されるかもしれない。エースの境遇も、これまでの人生も何一つ知らないのに、身を投げ打って助けにくる身内や仲間がいるエースを少し羨ましく感じた。私にもこの先の人生でそんな仲間に出会えるだろうか。もしそれがハートの海賊団ならこの上なく嬉しいけれど。
◆◇◆◇
「船を出すぞ、ベポ!」
「アイアイ船長!」
映像の途切れたスクリーンに背を向けて、ローがベポに指示を出した。行き先は全速力でマリンフォードへ。ベポが航路の指示を出す。映像で見ていただけでも壮絶なあの場所に、海軍と海賊の総当たり戦のような場所に突っ込むといったローは何を考えているのか。白ひげが負傷した今、白ひげ海賊団側の戦況が不利だ。もしも海軍に負けたらあの場にいる海賊はすべで捕まって処刑されてしまう。ルフィも。
たどり着いた戦場で、怒号と爆発音、そして荒れ狂う感情の波にのまれる。この場に立っただけなのに心臓が早鐘を打って、渦巻く殺意に晒されて冷や汗が流れた。こんな戦場のど真ん中では対抗することは愚か、流れ弾に巻き込まれないようにするので精一杯だ。
大将の一人が空に浮いていて攻撃態勢にはいる。映像で見る限り光速の何かが飛んでくる。身構えたその瞬間、空気を震わせる大声が響いた。