episode.11





土煙と喧騒の中にあっても、若い海兵の声が確かに響く。命が勿体無いと泣いて叫ぶ彼に、海軍にも真っ当な人がいるのだと思った。彼が大将を止めた数秒で、確かに戦況が変わった。突然現れた新しい海賊。誰かが赤髪の海賊団だと叫んだ。

第三勢力の介入に場が混乱した隙に。浮上した潜水艦からルフィを呼び込んだローは遅れて届いた麦わら帽子を受け取ると、持ってろと私に手渡してきた。ハッチを閉めて速攻でまた海中に向かう。無数の光が海の上から降ってきて、ポーラータング号の行く手を阻もうとする。なんとか縫う様にして攻撃をかわし、ベポの指示のもとなるべく遠くへと船を操舵していくなか、ローは処置室に運び込まれたルフィとジンベイの治療に当たっていた。


手に抱いた麦わら帽子の持ち主は、大怪我で生死を彷徨っている。彼があれほど体を張って、一度はエースを奪還したというのに。あと少しのところで、エースは死んでしまった。目の前で大事な人が殺される恐怖は、悲しみは計り知れない。海賊は犯罪者、それは間違いないけれど。やり切れない思いがぐるぐると胸の中にわだかまる。

ローはあの場からなんとか救ったこの人たちの命をつなげようとしている。あんなに大太刀周りをした騒ぎの中心が自分とそう歳のかわらない様な男の子だったことにびっくりした。ローが助けたいと思った男。あの場にいたら間違いなく海軍に捕まっていたであろうが、怪我の状態も加味していち早く船に乗せて戦線離脱したのは正解だったと思う。


ローはシャチとイッカクとともに処置室に篭りきりで。かれこれ3時間が経過した。ローが篭っている間にいつのまについてきたのか七武海のハンコックが追いついてきて一瞬戦闘かと身構えたけど、どうやらルフィと個人的に縁があるらしく追撃に来たわけではない様だった。
手の中の麦わら帽子には一見して見えないようにしてあるがよく見るとキズを治した様な跡があったり、年季が入っている。麦わらのルフィ。シャボンディにいたらしいと後から聞いたけどあの小さくなってた男の子だろうか。彼の仲間は今どこにいるのだろう。



ローが処置を終えたのはそこからさらに2時間後だった。先に処置室から出てきたイッカクを呼び止める。


「この麦わら帽子、だいぶボロボロなんだけど少し綺麗にできないかな」


「普通に洗ったら型崩れしちゃうから、濡れた布で丁寧に拭いてあげるくらいかな」



「わかった、やってみる。ありがとう!イッカクもお疲れ様ゆっくり休んでね」



キッチンにいた船員に声をかけて、きれいな布と水をもらった。乾いた布と濡らして硬く絞った布、それぞれを用意して丁寧に麦わら帽子の表面を拭う。砂埃や血で汚れたところは水を多めに含ませた布で溶かすように拭いていった。風通しの良いところに置いて、湿らせたところを乾かせば、先ほどよりはいくら綺麗になったと思う。

イッカクの話を聞くに二人は一命を取り留めて、今は絶対安静らしい。意識が戻ったら、ルフィはきっと今日のトラウマを夢に見続けるかもしれない、私の様に。

直接相対したこともないのに、勝手に同情している自分がいる。ローがわざわざ救ったのだからこれからすぐに敵対とはいかないだろうが、一個団の船長がいきなり仲間になるわけもない。変に感情移入しても良いことはないと頭を振って、ルフィとジンベエが目覚めるのを待った。



◆◇◆



七武海のハンコックの機転で、ポーラータング号は女ヶ島へ寄港することになった。先に目覚めたジンベエとは裏腹に依然としてルフィは昏睡状態だ。ローは治療の目処がつくまで停留することを決めた。
女ヶ島は男子禁制という法があるらしく、ローたちも含めて島の中には入れない。私とイッカクは女性だからと許可をとって船に必要な物資の調達をかって出た。


「いいなぁ、女ヶ島。俺も行きてー」


「シャチが行ったらきっと攻撃されちゃうよ」


「女だらけの島なんて男のロマンだよな」


シャチにペンギンまで同意して、羨ましい羨ましいとネチネチ言われる。男だらけの島にはなんの魅力も感じないんだけど…逆はそんなにいいものなの?


「ローも行きたい?」


調達資金を預けにきたローにそう聞いてみると、ジト目でこちらを睨んできた。


「行くかよ、めんどくせェ」



「俺たちの船長はモテるからなぁ!」



「向こうから寄ってくるんじゃないか?」



だるそうなローをシャチとペンギンが煽る。へぇ、ローってモテるんだ。確かに身長高いし、強いし、声がいい。顔は、あんまり健康そうじゃないけど、整ってはいるかも。
でもそれでいうならシャチだってペンギンだって頼りになるし優しいし。モテるんじゃないのかな?それか、また別ジャンルという意味なら。


「女ヶ島で一番モテそうなのはベポな気がするけどなぁ」



「オレは白熊のメスにモテたい。人間のメスは別に」



「くっそー!なんで女子はこんな白熊にぃ」



「気持ちいもんね、もふもふして」


ベポに正面から抱きつく。ツナギを着ていてもまるでクッションのような触り心地だ。お腹に顔を埋めるとおひさまの匂いがした。いつまで戯れてるんだと、お金をイッカクに預けたローは私たちにしっしと手を振った。早く行ってこいってことね。私はいってきますキャプテンに敬礼するとイッカクと共に軽快に船から飛び降りた。

- 12 -


prev | next