episode.12





「ゆっくり降りて島を回るのは初めて?」


「うん」


「はいこれ、ローからリトへのお小遣いだって。生活に必要なものを買うといいよ」


おもむろにイッカクがポケットから取り出したのは皮でできた巾着。ローからの物資調達用の巾着よりも一回り小さい。それをポンと私に投げて寄越した。


「え、いいの?」


確かに私が乗ってから最初についた島は物資調達に同行してないし、ローに仲間に入れてってお願いしてたから島に降りてなかった。続くシャボンディ諸島は、状況が緊迫しすぎて買い物に出るどころじゃなかった。地に足ついて店を回るのなんて、ましてや服を選ぶなんて何年ぶりだろう。しかも着の身着のままでやってきたおかげで一文なし。こうしてお小遣いをいただく手間までかけて申し訳ない。だけど、服や下着なんかは何を選んでいいかわからないから、イッカクにお願いして一緒に選んでもらおう。


「きゃーかわいい!耳も尻尾も本当に生えてるのね」


「触らせて!」


「私も!」


「港の海賊の仲間なのでしょ?」


「船の仲間に男がいるのってどんな感じ?」


アマゾンリリーに入った瞬間、好奇心旺盛な女性たちに取り囲まれて身動きが取れなくなった。矢継ぎ早な質問と、頭や尻尾に伸びてくる手から反射的に跳びのいてイッカクの背に隠れる。女子の圧怖い。


「ちょっと!リトが怯えるからやめて」


「怖がらないで、ちょっと耳を触ってみたいだけなの」


「かわいいお洋服もあるのよ」


「長旅を癒したいならスパはいかが?」


「エステで身も心もすべすべピカピカにできるわよ」



怒涛の営業トークに巻き込まれてどうしていいのかわからない。縋るようにイッカクを見ると、私を頭のてっぺんからつま先までじっと観察されて。


「いい機会だし、気になるならやってもいいんじゃない?」


「えっ!?いやだよ!服脱ぎたくないもん!」



動揺する私に、それもそうか、とすぐ引いてくれたイッカクに胸を撫で下ろした。わくわくと楽しそうな女性陣に囲まれ危害を加えるわけでないと分かっていても身体が緊張して萎縮してしまう。エステなんて体験したこともないけど、マッサージの類だと服を脱がされるかも知れない。それはできるだけ遠慮したかった。


「お金とって耳触らせてあげれば?一回500ベリー。どう?」


何の気なしに言われたイッカクの提案に、それはいいかもしれないと手を打った。こうして四方八方から詰め寄られるよりも、まだそっちのがマシだ。それに、自分で稼がないと、この先ことあるごとにローに頼ってばかりもいられない。実際これでどのくらいの収益が見込めるかは未知数だけど、小銭稼ぎにやってみようか?



「資金集めは成功した?」


「思ったよりも!」



いきなり始めたケモ耳お触り体験は有料にも関わらず大盛況だった。重みの増した巾着を満足気にみる。この中でなるべくローにもらったお小遣いに手をつけない程度に買い物ができれば上々だなぁ。



◆◇◆





「リト、ほんとにそれだけでいいの?」


私の手の中にある荷物を見て、海賊なのに物欲ないんだね、とイッカクは肩をすくめた。ローから貰ったお小遣いは十分過ぎるほど多かったが、いくらお店を回ってもあれが欲しいこれが欲しいという感情がわかなかった。船にいた間にイッカクがもう着ない服や雑貨をそのままくれたりしていたこともあって、最低限の下着と生活用品を買うにとどまったのだ。女ヶ島の風土のせいか、異様に露出の高い服ばかりだったというのもある。普段はツナギがあるのだし、寝巻きとこうして船を降りて行動する時くらいしか着る機会が無いのだ。そうだ、イッカク以外の船員にももう着ない服があったら譲ってもらおう。普段着ならそれで十分だ。


航海に必要な買物も終えて、船に戻ると森が大騒ぎになっていた。船の近くの浜に白髪の男性がいた。よくよく目を凝らす。あれは。


「レイリー!」


シャボンディで奴隷の首を外してくれたレイリーは、私のもう一人の恩人と言っても過言ではない。レイリーがいなかったら、私はヒューマンショップから逃げられなかった。呼びかけながら近寄る。


「お前は…リトか!生きていたか!」



「レイリー、シャボンディではありがとう」



「この船にいたのだな。元気そうで何よりだ。以前あった時よりも美しくなっているな」



「そう?うれしい!」



レイリーは私を覚えていてくれたらしい。私の首輪と枷を断ち切ってその後は麦わらの一味の手助けをしていたのだそうだ。優しく笑って頭を撫でてくる手を受け入れる。
どうやってここへ?と聞いてみると、まさかの泳いできたという返答だった。沖に浮いてる海王類はレイリーがやったのかな…?


「そういえば森が騒がしかったけど、なにかあった?」


近くにいたローにそう聞いてみたら、どうやらルフィが目を覚ましたらしい。よかったとホッとすると同時に、すぐにあんなに暴れて大丈夫なのかと心配になった。案の定、容態を気にするジンベエにローは次キズが開いたら死ぬと宣告していた。どうりでハートのみんなが必死で追っていったわけだ。話を聞くなりジンベエも森へとすっ飛んでいった。


「買い出しはうまく行ったか?」



「うん、食料も燃料も調達済み」



「そうか。麦わら屋の意識も戻ったし、そろそろ俺たちは航海に戻るぞ」



「わかった伝えてくる。あ、ねぇロー。着なくなった服とかある?」


船に戻ろうと腰を上げたローに、さっき思いついたことを話す。ローは結構色んな服を持ってるから、中にはもう着なくなったものもありそうだ。サイズは多少合わなくても袖は捲ればいいし、丈は切ってしまえば問題ないだろう。


「あ?なんでだ、買ってこなかったのか」


「お金ありがとう、生活物資は色々買えたよ。でも私あんまり服の好みがなくて。みんなの着ない服があったらそれでもいいかなって」


お世話になりっぱなしの上に、貰ったお金だと思うと使うのをためらってしまうというのは、胸の中に留めた。クルーのみんなに聞いて二、三着ゲットできれば充分なことを伝える。ローは私の話を聞くなりこちらをじっと見つめてきた。視線が頭のてっぺんから爪先までを行き来する。さっきもイッカクにされたな。なんだか査定されているようで緊張してしまう。
ついて来いと言われ、船に向かうローに続いた。


いつもは夜に訪れる見慣れたローの部屋。だけどクローゼットの中は初見だ。ローはなんでも似合いそうだなぁなんて思っていたら、クローゼットを漁っていたローからバサバサと洋服が飛んできた。広げてみると柄物の開襟シャツだったり、普段着てるハートのロゴの色違いパーカーだったり、派手なアロハシャツから中がもこもこしたスウェットなんかもある。アロハなんてローが着てるイメージが全然湧かない。天候がしょっちゅう変わる海だし、南国のような島もきっとあるのかもしれない。以前イッカクからおさがりでもらったショートパンツもあるしその上に着れそうだ。



「好きなの持ってけ」



「こんなにいいの?」



「構わねェよ、もう着ないしな」



「ロー、ありがとう!」



みんなに聞いて回ろうと思ってけどこれだけあれば十分だ。お礼を言って洋服を腕に抱いて部屋を後にする。サイズが大きい分にはそんなに支障はない。部屋で着てみよう。
後日、ローの服を着ている私をみたシャチに、自分の服を着せるのは結構なフェチズムを感じる…とよく分からないけど失礼な誤解をされ、ペンギンには俺は萌え袖派だと謎の宣言をされることになるのだが、この時の私は知るよしもなかった。


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