episode.13
※ロー視点
「アマゾンリリーの人たちはみんな、男は危険な生き物だっていうの。私もそう思っていたけど。そんな人ばっかりじゃないよね、現に船員のみんなも、ローもこんなに優しい」
恒例のように俺の部屋に現れたリトが毛布にくるまりながらそんなことを言い始めた。過剰な防衛は度を超してるように思えるが、女ヶ島の奴らの認識の方がよっぽど合っている。純粋な腕力で勝てない存在に対して警戒するのも対抗する術を持つのも当たり前だ。リトはうちの船の船員を優しいと頭から信じ込んでいるが、あからさまな下心があるやつだっているしここまで無防備でも無事に済んでいるのは、ペンギンやイッカクやらが過保護に目を光らせているからに他ならない。
「……お前はもう少し危機感を持て」
「誰に?」
きょとんとした顔でこちらをみるリトは、男の怖さや乱暴さは嫌というほど知っているはずの過去がある。そこから逃げ出して今ここにいるリトにとって、この船の中は完全に安全な場所とカテゴライズされているらしい。ここでその場所にまで危機感を持てというのも躊躇われて今までその類の話は避けていた。
「男が優しい時は大抵下心があると思え。女ヶ島の奴らほど警戒しろとは言わねェが簡単に気を許すな」
「…え、と、…じゃあローにも下心があるってこと?」
「あ?」
「だって、ローが一番優しい…」
うろ、と視線を彷徨わせるリト。照れているのか、嬉しいのか、床についた尻尾が忙しなく揺れている。本当にわかりやすい。表情よりも何倍も雄弁に感情を表す耳や尻尾だ。
「飼ってる犬に、下心も何もねェだろ」
「また犬扱いする!ひどいっ、私だって女の子なのに」
リトはもういい、と拗ねたように毛布に顔を埋めて会話を強制終了させた。しばらくすると静かな寝息が聞こえてくる。警戒心を持てと言いたかったはずが、何の話だこれは。咄嗟に犬に喩えたのは、失敗だったか。船員に対して仲間意識を持つのは当然だとでも言えばよかったのか。だとすると、俺の危機感云々の話と矛盾する。船の外では流石のリトでも警戒するだろう。それに船内にいる奴らの中に、イッカクやペンギンが怒るとわかってリトに手を出す馬鹿はいないはずだと結論付けた。
下心が一番あるのは俺だと?馬鹿なことを言う。こいつはただの船員で、部屋に置いてやるのはそうしないとこいつがろくに寝ないせいで、危機感を抱かせたいのは、意識をさせるため。……意識?何を?男を?俺を?
「…そんなことあってたまるか」
"この先の生涯は貴方のために使いたい"
自分を純粋に慕って、生涯を献げるなんて。まるで俺がコラさんにするような憧憬を向けられる日が来るとは思わなかった。だから、重いと言ったし必要ないと突っぱねた。と同時にあの純粋な目に心が揺さぶられた気がした。
気まぐれで拾って助けた犬が、恩を感じて懐いてきている。今の状況は端的に言えばそう言うことだ。それ以上も以下もない。無理やりにそう自分を納得させる。俺がこれから辿るのは修羅の道だ。懐に誰かを入れる隙間も、愛情を注ぐ隙間もない。だから、一時的に癒されることはあってもその存在に依存するわけにいかないのだ。
自分の中には世界を憎む闇がある。必ず復讐をと心に決めた相手がいる。それは蓋を開ければいつでも溢れ出してくるほどに激しい感情だったが、それでも束の間に見るリトの安心しきった寝顔に、毒気が抜かれる自分も確かに存在していて。忙しい情緒を無視するように、ランプの灯を消した。