episode.15






風のない穏やかな海。ここ数日は海上をゆくポーラータング号で今日の仕事を一通り終えて。日向ぼっこでもしようと甲板に出たら、シャチがペンギンの髪を切っていた。



「え、シャチ髪切れるの?」



「海賊になる前は美容院にいたんだ。つっても雑用だけどな」



謙遜する割に、私が話しかけても全く手が止まることなくするすると鋏が動く。危なげないその手付きは堂にいっていた。普段から船員の髪を切ってあげているのだろうか。



「えー!すごい!いいなぁペンギン」



「お前も切ってやろうか?」



「いいの?」



「もうすぐペンギンが終わるからちょっと待ってろ」



「うん」



大人しく横に座って、毛先を整えられていくペンギンを見る。髪切ってるところって延々と見ていられる。ペンギンは帽子もあってかあまり髪型は変えない。それにしても前髪が伸びてるところすら見たことが無いなと思っていたけど、定期的にシャチが整えていたのなら納得だ。きっとローも切ってもらってるんだろう。
視線を落として自分の毛先を見やる。髪型に気を使う暇もなかったから、腰に届くくらいに伸びっぱなしだ。この船での食生活と、シャワーのおかげで潮風を浴びていてもだいぶ髪質は良くなってきたと思う。ただ毛先はもうどうしようもないくらい傷んでる。


「リト、お前の番だぞ」


椅子から立ち上がって伸びをするペンギンにそう言われて、交代するように椅子に座った。首に大きい布を巻かれる。てるてる坊主みたいだと面白がっていると、横にいたペンギンが細かい髪の毛がくすぐったいと言って、徐に海に飛び込んでいった。ええ、シャワーじゃないの。ペンギンは驚くほど泳ぎが得意だから、流されてくことなんてないんだろうけど。それにしても意外と雑なところあるんだよなぁ。そんなことを思いながらペンギンの方に向いていた頭をグイッと正面に戻される。


「どうしたい?」


「うーん、長くても手入れできないから短くしてほしい」



「いいのか?」



「うん、別に伸ばしてたわけじゃないから」



髪型はシャチに任せる、と丸投げするとそうだなぁ、とシャチの手が探るように髪を梳いていく。その優しい手つきに頭を撫でられるのとはまた違って、くすぐったいような気持ちになった。しばらく思案をしていたシャチは、方針が決まったのか霧吹きで髪を濡らしはじめた。



「獣の耳ってやっぱ不思議だなぁ。おい、危ないから耳を動かすな」



「わざとじゃないー、くすぐったいんだもん」



シャキンシャキンと小気味よい音を立てて髪が切り落とされていく。毛先が触れたり、周りを触れる度、耳が勝手にひょこひょこと動いてしまう。いつの間にか半裸で海から戻ってきたペンギンも甲板にあぐらをかいて私の髪が切られていくのをみていた。





「こんなもんだろ」


どうだ?と手鏡を渡されて、自分で見てみる。伸び放題で腰まであった髪が、全体的に鎖骨くらいの長さになっていた。頭が軽い。顔周りは顎の位置くらいで揃えられていて襟足は毛先が外に撥ねている。



「すごい!」



「ウルフカットってやつだ。まあ、お前犬だけど」



「似合ってるぞ」



「気に入った!!シャチありがとう!」



首を振って細かい髪を飛ばす。ペンギンから太鼓判を押された。嬉しい。視界がクリアだし、風の抵抗も前よりなくて動きやすい。シャチにはなにかお礼をしなくっちゃ。思っていたことを見透かされたように、お礼は掃除当番を代わってくれればいいぞと言われ二つ返事で頷いた。椅子や布の片付けを手伝う。そういえばシャチの髪は誰が切るのだろう。いくらシャチが上手くても自分で自分の髪を切るのは難しいはずだ。他にも手先が器用な船員は何人かいるけど、イッカク辺りがやってるのかなぁ。
そう思って聞いてみると、意外にもシャチは島に寄った時に美容室に行くらしい。新しい髪型や技術を知るのも楽しいのだそうだ。また一つ船員の意外な一面を知った。



◆◇◆



「随分切ったな」


夜になってローの部屋を訪ねると、短くなったな髪をみて開口一番そう言われた。



「うん、似合う?」



「いいんじゃねェか?踏まなくなるだろうし」


今までベッドに潜り込んで寝ると、朝方に自分で自分の髪を敷いていたり、ローに敷かれたりしていたことを思い出す。起きようとして引っ掛かることもよくあったから、これからはそんな心配もなくて快適だ。



「ローも、シャチに切ってもらってるの?」



「ああ」


予想通りの返事だった。背後に立って髪を切られるってかなりの無防備だ。警戒心の強いローなら尚更信用できる人間以外に自分の髪触らせることなんてなさそうだし。この船にシャチがいるのはすごい僥倖なんだと思う。それでいうと、ちゃっかりこの部屋で寝るのが常習化している私は、ローからして少しくらい信用してくれているのかな。圧倒的実力差のおかげで歯牙にもかけてない可能性もあるけど。願わくば、少しずつでもローに信頼されて任せられるような存在になりたい。じっと横顔を見つめていると、視線に気づいてローがこちらを向く。なんだ?と聞いてくるその目に警戒の色はないことに安心しながら、何でもないとおやすみを告げた。











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