episode.18
ここ数日、珍しく一つの島に滞在している。
ベポに聞いた話だとログが溜まるのに二週間を要するらしい。上陸してみれば海軍の基地はないし、そこそこ発展した街もあったことから、そのまま滞在することになった。ポーラータング号は島の裏手に隠してある。島の裏手は鬱蒼とした森になっていて人気はない。私たちにとって大した障害ではないけど、ほどほどに崖なこともあって船を隠すには絶好だった。悪環境な場所に船を付けてもローの能力で上陸に不便しないのは本当にすごい。つくづく便利な能力だ。…本人に言ったら怒られそうだけど。
久しぶりに買い物でもしようと誘われてイッカクと街を訪れていた。
「帽子?」
「そう。尻尾もそうだけど、やっぱり耳が目立つかなぁって。あとシャチとペンギンの帽子かわいい」
洋服を一緒に見ながら、ふとお店の向かいに帽子屋さんを見つけた。あそこにも行きたいと指差すとイッカクは快くついてきてくれた。ハートの海賊団はローを筆頭に帽子を被ってる人が多い。ツナギがお揃いだからなのか、ローに憧れているからなのか、みんな個性的でかわいいし、私個人としても顔を隠すのに最適だと思っていたのだ。
「でも帽子被ったら耳が潰れちゃうんじゃない?」
平気なの?とイッカクに言われ、確かにと思った。ためしにペンギンが被っているのと似た形の帽子を被ってみる。被れないことはないのだが、どうしても帽子の中で耳が折れる。音も聞き取りづらいし、何より押さえ付けられている感じが不快だった。
「うぅ、耳ぎゅっとされてる、窮屈」
「ほらやっぱり」
帽子は駄目なのかなぁ。サンバイザーとかにするしかない?とほかの商品も見てまわるが、なかなかいいデザインに出会えない。
「あ、これみて?リトの毛色に似てない?」
「ほんとだ」
イッカクが手に取ったのは灰色と白のキャップだった。バイカラーで、言われてみれば私の耳や尻尾とよく似た色合いだ。生地も、ローの帽子のようなふわふわした素材で作られていて触り心地が良かった。でもこれもやっぱり耳が潰れてしまう。帽子は諦めるしかないようだ。泣く泣く棚に帽子を戻すと、それを見ていたイッカクが何やら思案顔をしていた。
「もふもふ具合も似てるし……よし、いいこと思いついた。帽子の件はわたしに任せてくれる?」
「ん?、うん」
先に外に出ていてと促され、言われた通りに店を出た。十分もせずにイッカクが出てくる。手にはお店の紙袋を持っていた。
「何か買ったの?」
「秘密〜」
イッカクもニット帽を被ったりするし、何か気に入ったものがあったのかもしれない。なにやら楽しそうなイッカクと一緒にその後も街をまわった。
船に戻ってきてから、買った荷物を片付けがてら断捨離をすると言い出したイッカクは、部屋に篭ってしまった。私はというと元々持ち込んだ荷物がなかったから、たいして片付けるものもなく。ぷらぷらと森を散歩する。人の手が入っていない森は葉が伸びすぎて太陽の光があまり入らない。その分濃い緑の匂いが私には心地良かった。陽が沈み始めて、船に戻ってくる船員と、逆に夜の街に繰り出そうとする船員とが入れ替わった。私はお酒が飲めないから夜のお店について行くことは滅多にない。以前寄った島で夜に出かけたシャチが、お酒と香水の匂いをべったりつけて帰ってきたことがあって、あまりいいイメージもなかった。私もそろそろ帰ろうかと船に戻るとイッカクに呼ばれた。
これ被ってみて、と目の前に差し出されたのは昼間のお店で見たキャップだった。イッカクはこれを買っていたのかと答え合わせの気分だったが、どうして私に?
不思議に思いながら言われた通りに被ってみると。
「わぁ!耳がでる!!」
潰れることなくひょこっと出た耳にびっくりする。パッととってよく見てみると帽子には綺麗に穴が開いていた。きちんと穴の周りも処理されていて丈夫そうだ。元々の帽子の素材や色味と相まって、一見すると耳のついた帽子を被っているように見えた。目深に被れば人相も隠せる。
「すごい!すごいよ!イッカク!私これ気に入った!!」
「喜んでもらえて嬉しい!」
「大切にするね、ありがとうイッカク!!」
嬉しさが極まってイッカクに飛びつく。こんな素敵なものを作ってもらえるなんて思ってもみなかった。みんなに見せてきてもいい?というと行ってらっしゃいと笑顔で送り出された。部屋を飛び出して、どこへ行こうか迷ってとりあえず甲板に向かった。道すがらあった船員も口々に褒めてくれる。イッカクにはなにかお礼をしなくっちゃ。何なら喜んでくれるかなぁ。そんなことを考えながら甲板に出るとちょうどペンギンとシャチが船に戻ってきたところだった。
「ペンギン!シャチ!みてみて!」
「お、似合ってんなぁその帽子」
「うまいこと耳と一体化して見えるな」
「でしょでしょ!二人みたいな帽子が欲しいって言ったらイッカクが作ってくれたの!!」
嬉しくて嬉しくて二人の間を走り回る。褒められてなおさら尻尾がぶんぶん揺れた。船長とベポなら操舵室にいるから見せてこいよと言われてスキップ混じりに向かう。
ノックをするとすぐに返事が返ってきて、勢いよく操舵室の扉を開けた。海図を見ながら何やら話していた二人はこちらを見て、すぐに帽子に気付いてくれた。
「リト、その帽子可愛い!耳のところは?どうなってるの?」
「イッカクが穴を作ってくれたの!」
「似合ってるぞ」
ベポとローの言葉に、顔が緩む。これで私も堂々と一緒に戦える。イッカクへのお礼は何がいいかなと、と相談すると美味い酒でも買ってやれとローがお小遣いをくれた。ベポがイッカクは赤ワインが好きだよ、と追加情報をくれる。確かに食堂でよく飲んでるところを見かけるが、泥酔しているところは見たことがない。お酒の良し悪しはシャチあたりが詳しいのかなぁ。二人にお礼を言って部屋を出るて、その足でシャチのところへ戻る。事情を説明して明日一緒にお酒を探しに行って欲しいと頼むと、シャチは快諾してくれた。