episode.5
※ロー視点
毛布に顔を埋めるように丸まって寝ている姿は、まるで犬そのものだ。
操舵室の見張り以外は寝静まった深夜。医学書を読む傍らに飲み物がほしくて部屋を出ると、船内を動く気配がした。気になって見に行ってみれば暗い通路の先で爛々と光るものが見える。近づいてようやく瞳孔の開いたリトの目だと分かり、恐慌状態のリトをイッカクの部屋に戻すわけにもいかず、やむなく自室へ連れ帰った。
PTSDのような症状を見る限り、原因は体の傷と関係があるのだろうと辺りをつけたが、予想はあたっていたようだ。なにが引き金になったのかわからないが、通路にそれらしきものはなかった。物理的なものでないとするなら、音か、匂いか、状況そのものだ。眠れないとこぼしたリトの話を拾うに、暗闇が怖いのか?
この手の病に薬は微妙だ。効果的に使えば改善はするが、下手を打つと薬への依存度を高めることになりかねない。薬と本人との相性もある。リトの過去を詮索するつもりはないがこの船にきたことで以前いた場所とは物理的に離れたのは間違いない。あとは本人の心の問題だ。
なるべく明るい場所にいたいのか、ここにいさせてほしいと言い出したリトに逡巡する。深夜に男の部屋に入り浸ることへの危機感は皆無のようだ。それこそ以前イッカクが懸念したように大人の男への恐怖や拒否反応が出るかと思ったがいま目の前のリトを見る限りその様子はない。昼間もペンギンやシャチと会話していたのをみかけた。リトに年齢を聞いた折に18歳だと聞いていたが、言動や体の発育に関しては実年齢より若干幼く感じる。おそらくは心身共に成長する時期に、それが叶わなかったせいだろう。ここで駄目だと部屋を追い返したところで、リトはまた船内を彷徨くのか、またパニックになられても面倒だと考えた末に、勝手にしろと返した。
「寝られるじゃねェか」
規則正しい寝息にため息をつく。剥き出しの床に転がしておくのも躊躇われ毛布ごと抱えてベッドの端に降ろす。時折揺れる耳や尻尾を見ているとベポに触る時のように、感触を確かめたい衝動に駆られた。世話の焼けるペットのようだと言ったら、本人はどんな顔をするのだろう。絶望と熱に侵され泣いている顔と、こちらの機嫌を伺うような緊張した顔、表情が乏しいうえにそんな顔しか見ていない。希望の持てるような生活をしていたように思えないが、ガラス玉のようなリトの目に鮮やかな感情がのる様は少し見てみたいと思った。