episode.7





ベッドがギシッとしなる音がして目が覚める。辺りはまだ暗い。音のした方を見るとローがベッドに腰掛けたところだった。


「ロー?」


「起きたのか」


「うん」



妙にすっきりと目が覚めてしまった。でも結構寝た感はある。本当に、ローの部屋に来るようになって嘘のように悪夢を見なくなった。起きたらベッドの上にいてはじめはびっくりした。同じベッドでローが寝ていたことよりも、抱えられて移動したはずだろうに全く気付かず寝ていたことにだ。いつの間にそんなに気を許したのだろうと我ながら首を傾げた。翌日もまた眠気が来ずローの部屋に行った。やっぱりローの部屋も毛布も安心する。それを正直に伝えれば、毛布はやるから自室で寝ろと言われた。自分でもそうできたら良かったのだけど、ローの部屋は私が寝落ちるまでずっとランプがついていて明るいし、人の起きている気配を感じながら寝るのが何より安心できた。


けれど昨日は早朝に私がローの部屋から出てきたのをシャチに見られたせいで、シャチがローを揶揄って、結果体をバラバラにされていた。驚きすぎて悲鳴を上げたけど、ペンギン曰くちゃんと元に戻るらしい。そういう問題じゃない。
悪夢を見ずに寝たいのもやまやまだけど、それでローが変な誤解を受けるのは本意ではなかった。今のうちにこっそりイッカクとの部屋に戻ろうかな。いそいそと毛布を畳んでいると、ローに声をかけられた。


「部屋に戻るなら、ちょっと付き合え」


「え?、うん」


毛布も持ってこいと言われ、部屋を出る。ローが私を連れて向かったのは甲板だった。風がひんやりとしていて少し肌寒い。早々に持ってきた毛布を肩にかける。暗闇の中に海の音だけが響いて、少し不安が心を撫でた。ローは甲板から海の方を向いて立っている。何を話すでもなく、その横に立ってみる。しばらくそうしていたが、ローの意図が掴めない。



「ねぇ、ロー。私やっぱり部屋に戻るよ」



「待て、もう少しだ」



何を待ってるんだろう、早く部屋に戻りたい。毛布を握りしめる手に力が入る。遮蔽物のない真っ暗闇がやっぱりいい気分がしなくて、目を瞑りかけたその時。じんわりと水平線がほの明るくなった。
瞬間、ローが何を待っていたのかを悟る。空と海の境目が現れて、濃い藍色から紫、オレンジとグラデーションする。息を飲んでその光景を見つめた。光が一筋、二筋と増えていく。とてつもないエネルギーが徐々に上がってきて、暖かみすら感じる気がした。溢れる光に海面がキラキラと反射して目が眩んだ。胸の内側から言葉にできない感情が湧き上がる。今船の上に立っているのは確かに現実なのに、まるで夢の中にいるようだ。つい一週間前まで、こんな光景をみられるとは思ってもみなかった。足の自由を奪う枷も、死にたくなるような絶望もここにはない。風が髪を靡かせて、潮の香りも一緒に運ぶ。胸いっぱいに空気を吸い込んだ。ああ、彼らはこんなに美しい景色を何度もみているのか。そして、私もこの先何度もみられるのかもしれない、彼らと一緒にいられたなら。自分の中で止まっていた時間が動き出した、そんな錯覚を覚える夜明けだった。眩しさと感動で視界が滲む。


「…綺麗」


「俺の気に入りだ」


「ありがとう、ロー」


涙で毛布が湿っていく。ああ、洗濯しなくちゃ。そしたらローの匂いが消えちゃうなぁ。止まらない涙を拭いながら、お礼を言う。ローはぽんと私の頭に手を置いたかと思うと、操舵室に行くと言って船内に戻っていった。
この船の船員がローを慕う理由が分かった気がする。
私は目の前の光景を目に焼き付けるように、じっと水平線を見つめていた。





◆◇◆





船員が起き出して、食堂で朝食を取っていた最中。パンパンと注目を集めるように手のなる音がした。音の中心にはペンギンとローがいて。昼までには島に着く予定だと告げた。買い出しを担当するメンバーの名前がペンギンによって呼ばれていく。


「そうだ、リト。このあと船長の部屋にこい。話がある」


「う、あ、はい」


最後に付け加えられた一言に、自分の名前が出ると思わなくて返事が一瞬遅れた。わざわざこの場で言われるということは世間話などではないだろう。きっと私のこの先の話だ。もしも、この船に自分を売り込めなければ私は船を降ろされる。怪我人というだけでこの船のお世話になりっぱなしだったが、本来なら私を助ける義理はないしそのまま船に乗せてくれる義理なんてもっと無い。朝食を片付けたその足でローの部屋に向かった。ノックをする手が震える。入れ、と短い返事がして意を決して扉を開けた。


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