ボランティア
「hey, アキ、今日の放課後予定あるか?ないよな?」
「唐突に失礼ですね」
朝っぱらから、教室にやってきた政宗先輩は、開口一番そう聞いてきた。先週猿飛先輩と放課後一緒にカフェに行ったことで、後から政宗先輩になんで誘わなかったのかと文句を言われたばかりだ。そもそも誘うわけがないのだけど、はいはいと流してしまっていた。そのやりとりを経ての今日だ。予定はないけどあるって言おうかなと、思うくらいに嫌な予感がする。
「私放課後は忙しいんです」
「お前帰宅部だろ?」
「そうですけど、家でやることがあるので」
「何を?」
「しゅ、宿題とか…」
「もうちょっとマシな嘘つけ」
「……。ちなみにないって言ったら何に巻き込まれるんですか、私は」
「ちょっとしたボランティアだ」
「ボランティア?」
「2時間くらい俺の横に立っててくれればいい。飯も出るし、帰りは家まで車で送る。報酬もつくぞ」
報酬が付くならボランティアじゃなくない?総じて怪しい予感しかない。
「お断りします」
即座にお断りをしたのに、政宗先輩はガバッと私の手を握って、離してくれない。
「頼む、本当に困ってるんだ。アキにしか頼めねぇ」
珍しく本当に焦った様子の政宗先輩に怯む。何をそんなに切羽詰まってるんだろう。ますます怪しいし、面倒ごとの予感しかない。
「俺の横に立って、適当に相槌打っててくれりゃすぐに終わる」
それなら私である必要ないんじゃないかな、と思いつつも、同時に本当にそれだけでいいなら受けても問題ないのでは?という考えも浮かんでくる。政宗先輩は俺の横で、としきりに言ってるからなにかあればすぐ政宗先輩を頼ればいいのだし。なにより朝から教室で私の手を握って猛烈に何かを懇願しているというこの状況の方が良くない。こういう時に限って猿飛先輩は来なくて、蹴散らしてくれる人がいない。チラチラと周囲の視線がまとわりつく。
「…、わかりました。本当に横に立ってる以外何もしないですからね」
不承無精頷くと、政宗先輩はニヤリと急にいつもの不敵な笑みに表情を変えた。え。今までの切羽詰まった様子はどこへ行ったの。
「じゃあ、授業終わったら迎えにいくから教室にいろよ。勝手に逃げたら捕まえて縛って連れていくからな」
不穏なことを言い逃げして、政宗先輩は教室を出て行った。私は政宗先輩の演技にまんまと騙されたのだ。許せない。
▼▼▼
「よぉ、大人しく待ってたな」
逃げても無駄だって先手打ってきたくせに。文句を言う気力も失せて、ただただ機嫌の悪そうな視線を送るだけにとどめておく。政宗先輩は意に介した様子もなくじゃあ行くかと、私を連れて学校を出た。
校門にはいつか見た黒塗りの高級車ではなく、普通車が停まっていた。運転席にいるのは、まさかの片倉先生だ。
「片倉先生?」
「神代、悪いな。政宗様のわがままに付き合わせて」
「あぁ、はい…」
今回のことは政宗先輩のわがままらしい。やっぱり面倒ごとなのかも。というか、ナチュラルに政宗様呼びした片倉先生にそっちが気になって仕方ない。政宗先輩のお目付役という本当か嘘か分からない噂は聞いたことがあるけど。
当たり前のように全く抵抗なく政宗様と呼んでいて、普段の片倉先生はむしろ厳しくて怖いイメージがあるからなんかギャップがすごい。
気後れしながら、車に乗り込む。そういえばこれからどこへいくのかも、具体的に何をするかも聞いていない。
「政宗先輩、これどこに向かってるんですか」
「馴染みの服屋だ。まずは、お前をdress upさせる」
?、dress up?なんか沸々と嫌な予感が沸いてくる。私がドレスアップする必要があるようなところに行くってこと?ちょっとまってほしい。
ボランティアの詳細を求めたが、着いてからのお楽しみだと濁され、のらりくらりと交わされるうちに、車が止まった。店に着いたらしい。
わざわざ運転席から回ってドアを開けてくださる片倉先生に完全に恐縮しながら、車から降りる。目の前のお店は、私みたいな一般人では到底入れない超高級店だった。
入り口でビビって立ち尽くす私を、政宗先輩が慣れた様子でエスコートして、店に入る。待っていた店員さんに恭しく出迎えられて、そのまま店の奥へと連れて行かれた。これはいわゆるVIP待遇というやつだろうか。
「こいつに似合う服で見立ててくれ、事前に連絡したと思うがヘアメイクも頼む」
「伺っております、お任せください」
当たり前のように指示出しする政宗先輩にも、それに従う店員さんにも、戸惑いが隠せないが、何より別室に連れて行かれていきなり採寸が始まったことにもびっくりだ。視界の端には下着まで揃っていて。下着から全て取っ替えられるらしい。てか下着関係ある?
促されるまま服を渡され試着する。値段がどこにも書いてないことが怖い。ボランティアとか言って、これ私借金でも負わされるのかな。
いくつかのパターンを着せられては政宗先輩の前に連れて行かれる。靴やアクセサリーの注文まで細やかに指示する政宗先輩に、どんどん私の神経がすり減っていく。この靴や輝きまくってるアクセサリーたちは、いったいいくらなのか。放心している私をよそに、ひと通り決まったのか、あとは頼むと言い置いて政宗先輩も別室に姿を消した。