橙と黒






「政宗さん、会いたかったです!」


「政宗くん、今日このあとは空いている?」


「政くん、今度プライベートで遊びに行きたいな?」



あの派手な美人の次は、年下の清楚系、その次は年上の妖艶系、その次は同い年くらいのお姫様系。もれなく全員がそれぞれ魅力的なお嬢様方だ。一様に向こうから挨拶に来て、見慣れない私に不審な顔をして、政宗先輩のつれない態度に撃沈していく。


「モテすぎでは?」


「うるせェ」


確かに1人で相手してたら疲れるなと少し同情するとともに、あんなにみんなそれぞれ可愛いかったり綺麗だったりするんだから一人くらいタイプの人がいてもいい気もする。


「皆さんお綺麗でしたけど、タイプじゃないんですか?」


「それなりに家や会社同士の繋がりがあるんだ、適当に手出せるわけないだろ」


「なるほど、意外と考えてるんですね」


「意外とは余計だ」


政宗先輩のキャラ的に女性を侍らせてても違和感がないので、素直な感想だ。普段私に冗談でペラペラ軽口言ってくるのは、絶対に勘違いしないと確信してるからなんだろう。どこぞのお嬢様でもないし、会社にパイプもないし、安心安全なわけだ。


「いつもと印象が違うので、びっくりしてます」


「…こっちのが好きか?」


「今更好青年な政宗先輩は気持ち悪いので、いつもの政宗先輩のがましですね」


「結構辛辣なこと言うじゃねーか」


そう言う割に嬉しそうに笑う政宗先輩は、いつもの政宗先輩らしくて、やっぱりそっちの方がいいと思う。そもそも人に敬語使ってるところ初めてみたくらい、先生達にも唯我独尊って感じだから違和感しかない。
政宗先輩が危惧していた厄介な女性達の相手は一通り済んだんだろうか?時計がないから時間が読めないな、と思いつつ。
政宗先輩に時間を聞こうとした瞬間、視界の端に橙色が映った。


「アキちゃん…?」


「猿飛先輩?」


なんでここに???とお互いまじまじと見つめ合う。猿飛先輩はフロアスタッフの格好をしていて、髪もピシリと撫で付けられいて、ホテルマンの制服がめちゃくちゃ似合っている。政宗先輩も猿飛先輩も、元がいいからきちんとした格好しただけでとんでもなくかっこよくなるのがズルい。


「なんでテメェがここにいる」


「バイト。右目の旦那に人手が足りないからって頼まれたんだよ。それよりこんなところにアキちゃん連れてどういうつもり?」


どうやら片倉先生が臨時バイトとして雇ったらしい。話的に猿飛先輩の方が先に決まっていて、私の参加が急遽決まった方なのだろう。どうりで今日1日学校で猿飛先輩に会ってなかったわけだ。一人で納得している間にも、猿飛先輩の口ぶりは冷やかだ。


「あー?、別にテメェに関係ねぇだろ」


「なにそれ喧嘩売ってる?」


他の人にしたように説明すればいいだけなのに、なぜかオラつく政宗先輩に、不穏な気配を察知する。また面倒くさいことになりそう。ていうか、この場で揉めるの絶対良くないよね??口調も戻ってるし!政宗先輩がホテルマンと睨み合ってることに、周囲が気づき始めている。


「と、とりあえず一旦会場の外に行きませんか?」


ね?ね?と強引に二人の手を引いて会場の外に連れていく。誰かに聞いて駆けつけてくれたのか、廊下に出ると片倉先生がいた。もっと早く来てほしかった。



▼▼


「で、どういう経緯?」


「女避けのためにって頼まれました」


「ふーん、女避けねぇ…」


場所をホテルのラウンジに移し、私と政宗先輩が椅子に座り、それぞれの横に片倉先生と猿飛先輩が立つ。矛先がいつのまにか私に向いていて、猿飛先輩に問いただされて、簡潔に答える。政宗先輩はラウンジの椅子に不機嫌に座っている。さっきの反応を見るに、片倉先生だけが事情を把握していて、先輩達はどちらも知らなかったようだ。依然としてピリついた雰囲気にさっき女性陣に絡まれていた時の方がましに思えてくる。


「さ、猿飛先輩!制服似合ってますね、かっこいいです」


「ありがと。アキちゃんもかわいいけど、本音いうと今すぐ全部脱いでほしい」


あまりの空気に耐えかねて、とりあえず猿飛先輩の機嫌を直そうと格好を褒めてみたら、予想外の角度でカウンターが飛んできた。


「は!?、冗談…、」


「冗談じゃないよ、本気。上から下まで他の男が選んだ服着てるなんて、耐えられない」


「…っ」


この場でどうしろっていうんだ。あまりに無茶を言う猿飛先輩に絶句するが、表情は至って本気だ。なんか頭痛くなってきた。


「事前に連絡しなかった俺が悪かった。あんまり神代を困らせるな猿飛」


「うるさい、右目の旦那も共犯だからね」


仮にも先生に対して随分な態度だ。いったいなんなの。呆れ果てる私をよそに、猿飛先輩は手を引いて私を椅子から立たせた。その手に痛いくらいの力が入っている。


「とにかく、アキちゃんは俺様が連れて帰るから。もう用は済んだんでしょ?」


確かにパーティはもう終わりだろうけど、猿飛先輩はまだ仕事あるんじゃないのか?強引に帰らせようとする猿飛先輩に対して、政宗先輩は肩をすくめてやれやれとため息をついた。目線で合図するといつの間に持ってきたのか、私の着替えが入った荷物を片倉先生が猿飛先輩に手渡す。なんで直接私に渡してくれないのか疑問だが、帰っていいってことらしい。


「本当に余裕がねぇなお前は。嫉妬深いのも大概にしろよ。アキ、今日は助かった。今身に付けてるもんは報酬として受け取ってくれ」


「いや!いいです、こんな高価なもの貰えませんよ!クリーニングして返します!」


「俺に返されても困る」


「アキちゃん、全部売ってお小遣いにしたらいいよ」


「そんなことできるわけないでしょ!猿飛先輩はちょっと黙っててください!」


売るなんてもってのほかだ。総額いくらなのか聞きたくもないが、こんな高価な一式貰えるわけがない。


「じゃあ、次の機会まで取っておけ」


適当にそんなことを言う政宗先輩に、次なんてないから!と猿飛先輩が噛み付く。どう考えてもうやむやにしようとする気満々だが、今はこの臨戦体制の猿飛先輩を政宗先輩から引き離さなくては、と借りて保存しておくという体で引き下がった。あとでこっそり片倉先生に返そう。政宗先輩と片倉先生にお先に失礼しますと一応頭を下げて、半ば引きずられるようにその場を離れた。


▼▼


「あいつ重すぎるだろ…アキが不憫に思えてくる」


「……政宗様が煽るからでは?」


「俺に文句があるのか?小十郎」


「いいえ、ただ少しでもその気があるなら、あちらとはまた対立することになりそうだと」


「ハッ、その時はそのときだ」



- 16 -


prev | next