バイクと先輩と
梅雨も明けつつあるある日の昼休み。
今日は猿飛先輩が来なかったので、クラスメイトとお昼を食べた。普段は別のクラスの鶴姫とかすがと食べることが多いが、今日は二人が所属する新体操部で部会があるらしく、そちらに行ってしまった。
クラスメイトとの食事中の話題はもっぱら猿飛先輩や政宗先輩とのことで。私にどちらと付き合うのかと問いただしてくる。どっちともそのつもりはないと言ったら、じゃあ元親先輩?と全然話が終わらなかった。それもこれも周囲に人がいてもお構いなしに公開告白してくる猿飛先輩と悪ノリしてくる政宗先輩のせいだ。
話題から逃げるように自販機に飲み物を買いに行き、すぐに教室に戻りたくなくて、ふらふらと校内を彷徨う。当てもなく歩いていると体育館のほうにやってきてしまった。
運動神経が壊滅的だからスポーツは苦手だが、みている分には面白い。昼休みだからか扉の開放された体育館には制服のままバスケをしている男子生徒たちが何人かいて、何の気なしにその光景を遠目で眺めていた。
「よお、なにしてんだ」
「元親先輩、なんとなく…ふらふらしてました」
声の主は元親先輩だった。いつも政宗先輩か、イカついお友達と一緒にいるので一人でいるのは新鮮だ。
「なんだ?なんか疲れた顔してるな」
「そうですか?日々猿飛先輩達に振り回されてるからですかね」
皮肉まじりに苦笑いでそういうと、意図せずため息が漏れた。口にしてみて、本当に少し疲れてるのかもと思う。誤魔化すように話を変えた。
「元親先輩、朝は見かけませんでしたが、今来たんですか?」
「ああ、メンテナンス出してたバイクを取りに行って、さっき来たとこだ」
「自由ですね、いいなぁ」
元親先輩は、地元のヤンキーを束ねてるとか、治安が悪いイメージの噂を聞くけど、私からみると不良というより規則や枠にとらわれない自由人だ。
しかも進級できてるくらいだから、自由の塩梅も心得ているんだろう。器用な人だ。私はどちらかというと不器用だし、周りの反応とか気にするタイプだから、なんだか単純に羨ましくていいなぁと思う。それが顔に出ていたのか、元親先輩は一瞬きょとんとした顔をすると、何かを思いついたように私の手を取った。
「よし、アキ教室からカバン取ってこい」
「え?」
「いいから、カバン持ってチャリ置き場に来い」
「いや、あの、授業…」
「あ、でもカバンくらい猿飛に届けてもらえばいいか。じゃあこのままいくぞ」
突然なんの話が始まったのかと戸惑ううちに、勝手に話を進めた元親先輩は、次の瞬間私をひょいと肩に担いだ。
「ひ!?、ちょ、ちょっと、元親せんぱい!?」
「あばれるな、落とすぞ」
軽々と肩に担がれ、腰はガッチリホールド。落とすなんて冗談だろうけど、不安定だし高くて怖い。そのままどこかへ移動している。待って、私ついてくとか一言も言ってない。何どこにいくの?
ちらほらとすれ違う生徒が何事かとこちらをみる。お構いなしに連れて行かれた先は自転車置き場だった。
隅の方に止まっていた大きなバイクの上に下ろされる。これ、元親先輩の?うわ、足がつかない。間を置かずにズボッとヘルメットを被らされた。
「っ先輩、!どこいくんですか!」
「んー、ついてのお楽しみだ」
「待ってくださいほんとに、私バイク乗ったことな、うわっ」
「ちゃんと捕まってろよ」
スタンドを外されて車体が急に不安定になる。慣れたようにまたがりエンジンをかける元親先輩に、何を言ったところでこのままどっかに連れてかれるんだと察した。落ちるのが怖いけど捕まり方がわからず背中のシャツを掴む。
「それじゃ危ねぇ」
腕を取られて、元親先輩の腰に回された。担がれてた時よりもさらに近い距離。しかも自分から抱きつくような姿勢に戸惑うが、直後にグンと進み出したバイクに必死で背中にしがみついた。息つく間も無くイカついエンジン音を響かせて、あっという間にバイクは校舎を飛び出して行った。