ペナルティ
「神代、霧隠、話があるから放課後職員室に来るように」
終わりのHRで担任に突然そう告げられた。理由にはおおかた予想がつく。多分先日元親先輩に連れてかれて学校を抜け出した件だろう。不可抗力だと抗議したいが、事実は事実だ。霧隠くんが呼ばれたのも、おそらく似たような理由だろう。彼はサボりの常習犯だ。普段からあまり積極的に交流するタイプじゃないからどんな人かは知らない。見た目がヤンキーな訳でもチャラそうなわけでもなく、普通の生徒なのだけど、時折ふらっと消えるのだ。
職員室を訪れると、担任の雑賀先生はプリントを採点していた手を止めて、椅子ごとこちらを向いた。霧隠くんはいなかった。
「なんで呼ばれたか分かってるか?」
「学校サボった件ですよね…?」
「そうだ」
「すみませんでした」
色々弁解したいことはあるが、言ったところで何が変わるわけでもないだろうな、と諦めの気持ちでさっさと謝罪する。
「何か言い分があるなら聞くぞ?」
「いいえ、実際サボっちゃったのは事実なので」
「3年の長曾我部に拉致されたという噂もあるようだが…?」
「拉致、は、言い過ぎです。ちょっと強引だっただけで。先輩は私を励まそうとしてくれたというか、気分転換に連れ出してくれたというか…」
先生達にまでやばい噂が回っている。私のこの学校での評価どうなってしまってるんだろう、と遠い目になった。そんな事件的なことではないのだと必死に説明すると、雑賀先生はフッと急に表情を和らげた。美人だけどあまり表情の変わらない先生だから、ギャップにドキリとする。
「長曾我部はああ見えて面倒見のいい奴だから、あまり心配はしていない。神代は上級生の問題児どもによく振り回されていると聞くから、お前に負担がないかが心配だっただけだ。叱るつもりで呼んだわけじゃない」
淡々と話す雑賀先生に、ホッとしてすこし緊張が解けた。
「負担がないわけではないですが…今のところはなんとか、大丈夫です」
「もし面倒になったらこっちでも釘を刺してやるから言うんだぞ」
「ありがとうございます」
御礼を言った直後、職員室のドアが開いて、霧隠くんが入ってきた。
「霧隠、遅かったな」
「サボりのペナルティですよね、何をすればいいですか?」
「霧隠、ペナルティを受ければサボっていいわけじゃないんだぞ」
呆れたような雑賀先生と慣れてるかのような霧隠くんのやり取りに、さすが常習犯だと感心する。不意にじろっとこちらを見た霧隠くんに怯む。実は同じクラスなのにまともに会話したことがない。彼は何も言わずに視線を戻した。
叱られてはいないが、サボったのは事実なので、私にもペナルティが課せられた。内容は校内の掲示板に貼られた掲示物の回収だ。期限の切れたポスター類を片っ端から回収するだけで、新しく貼るものはないらしい。霧隠くんと協力してやるように言いつけられた。
「霧隠くん、校舎の端と端から手分けしようか?」
「ああ。神代の手の届く範囲のものだけでいい。それ以外のものは俺があとで取っておく」
「それだと霧隠くんが結局全部校舎を見回ることになるじゃない」
「いつもは1人でやってるからそれで構わない」
「あ、そう?ありがとう」
ぶっきらぼうな言い方だが、言っていることは優しい。この校舎は広いし、脚立を持って移動するのは大変だから素直に助かる。それじゃあ、と別れて私は東棟、彼は西棟からそれぞれ作業を始めた。
黙々とポスターを剥がしていくが、地味に数が多い。廊下にある掲示板や、専門教室の壁など、あちこちにあるポスターを探しては回収していく。
ポスターの内容は奨学金や、模擬試験の申し込み、弁論大会の告知など様々だ。
作業しながらふと元親先輩のことを考えた。先輩も霧隠くん並みのサボりの常習犯だろうけど、何かペナルティを課せられているのだろうか。あの人はただただ自由人なだけだから、言われれば何でも粛々とやりそうな気もする。今日も今日とて元親先輩は朝来たと思ったら午後の途中でバイクで帰っていくのを見かけた。
猿飛先輩はバイトで、政宗先輩は家の仕事で、と理由をつけて学校をちょくちょく休むけど、それはどういう判定になるんだろう?
あの人たち出席日数とか単位とかちゃんと足りてるのかな。
そんな勝手な心配をしながら、淡々と作業をこなして、本校舎に戻ってきた。一度溜まったチラシをまとめて捨てて、本校舎での作業を改めて開始する。本校舎はほとんどが学年の教室なのでそちらは特にやらなくていいと言われている。なので校長室、理事長室、職員室、生徒指導室、各廊下の掲示板くらいだ。多分そろそろ霧隠くんも西棟が終わってこちらへ来るだろう。職員室は最後に回すとして、校長室あたりからやっていこう。
手始めに校長室をノックをしたが無音で、一応ドアに手をかけたが鍵がかかっていて入れなかった。鍵とってきてまでやった方がいいのかな?とりあえず一旦ほかのとこやってから考えるか、と隣の理事長室に移動する。
ノックをすると、どうぞと中から声があった。
校長がいないなら理事長はもっといないだろうと思っていたから意外だ。来客中とかだったらどうしよう、と一瞬思ったが、どうにかなるかとドアを開いた。