初日






「テーマはキャリアウーマンです!」


あれから無事復活を果たし、やって来ました文化祭当日。私が着る衣装は、なぜか当日まで秘密ですと言われていたんだけど。どう?どう?似合うと思うんだけど!と嬉しそうに感想を求めてくる衣装係になんて言っていいのかわからなくて、ぎこちない笑顔でいいと思うとだけ返した。

胸元にフリルをあしらったシャツに、太もも中ほどまで強気なスリットの入ったダークグレーのタイトスカート、ストッキングに先の尖った清楚なヒール(7センチ)。髪はコテで緩く巻かれ、久しぶりの仕事モードのアイメイクにオプションでかけられた柄の赤い伊達眼鏡。今回の私の衣装だ。
まあ、実際に会社員をやってた身としてはやや想像が強いものの抵抗のない服装なんだけど。

ちなみに言い忘れていたが、我がクラスの出し物はコスプレ喫茶だ。スタッフがコスプレをするのはもちろん、希望するお客さんには有料で衣装を貸し、写真を撮るオプションもある。衣装は既製品に手を加え、必要に応じてウィッグやメイクもする。喫茶といいつつメインはそっちだ。コスプレ衣装の案が出た時から感じていたけど…そうか、女子高生からしてみれば社会人はコスプレなんだな…となんだかとっても切なくなったのは秘密だ。


「おーー、なんか、すごい違和感ないな」


密かなジェネレーションギャップに落ち込んでいると、ふらりと黒尾がやってきた。
そういうギリギリなこと言うのやめてくんないかな。これでも見た目は若返ってるから違和感あるはずなんだ。つまり褒めてないよね、それ。


「そういう黒尾は、少しはまともに見えるよ。少しは、ね」


「惚れちゃった?」


「はいはい」


ニヤリと笑って巫山戯る黒尾はと言うと、三つ揃いのチャコールグレーのスーツを着ている。もともと背が高いのもあって悔しいけどめちゃめちゃ似合っていた。足長い。いつもの寝癖もスーツにあわせてセットし直してあり、衣装係が、渾身の出来だというのもうなずける。
一応コスプレの衣装には、一つのテーマにつき男女ペアで衣装が考えてある。医者とナースとか、警察官も男女二パターン。ちなみに私と黒尾のテーマはビジネスマンとキャリアウーマン。ほかにもメイドと執事とか、着ぐるみもクマとうさぎがある。それぞれが衣装を身につけ開店前にと写真を撮りまくっている。


「そのネクタイ自分で結んだの?」


「ん?、うん」


「せっかくならネクタイもオシャレな感じにしようよ、解いていい?」


「おう」


ふと、黒尾の胸元が気になった。スーツはよくみると目立たないストライプの入ったシックなもの。青みがかった白地のシャツにネクタイはダークネイビーの無地。
せっかく光沢のある無地ならと、一旦解いて結び目で遊んでみることにした。黒尾は普段と同じくプレーンノットだったけど、せっかく文化祭なのだし、エルドリッジノットとかどうだろう。ほんとにビジネスシーンならあれだけど、こういう場ならいいんじゃないかなー。


「器用だな」


「まーねー」


きゅっきゅっと、ネクタイを巻いていく最中、されるがままの黒尾はそっぽを向いてそんなことを言う。


「ていうか。なんでこんなの知ってんの?」


ネクタイ結ぶ機会ないだろ?女子の制服はリボンだし。とごもっともなことを言われて、返事に困る。
昔付き合ってた恋人がちょっと歳上で、こういうとこにこだわるお洒落さんだったんだよ…なんて言えるわけもなく。お父さんがオシャレなんだと誤魔化した。会ったことないこの世界のお父さん勝手にごめん。苦笑いする私をじーっと見下ろしていた黒尾はポツリと一言。


「なんつーか、この格好でする眼鏡ってエロいよな」



「……」



「まてまてまて」



速攻で眼鏡をとってシャツの胸ポケットに突っ込む。話が変わったと思えばいきなりなんだ。無言で半目になった私に、違うって、こないだ見たAVが…と勝手に墓穴を掘った黒尾は聞いていた他の女子の鉄拳によって開店前から床に沈んだ。


「さぁ、切り替えて準備進めよ」


「「はーい」」



思春期の野郎はこれだから。




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