クレーム対応








「困りますっ…ちょっと…!」


初日からそこそこ盛況に始まり、安心していた最中。不穏な声がして教室に目を向けた。なんてことだ。我がクラスの看板娘こと山崎さん(メイドさんコスプレ)が絡まれているではないか。
相手は3人、見た感じどう見ても大学生。いい歳して女子高生引っ掛けに来るとか暇過ぎでしょ。ねぇ、やばくない?とざわざわし始めるクラスメイトを落ち着かせて、実行委員兼クラス委員長に先生を呼びに行かせた。そこらにフラフラしてればいいけど、最悪運営テントまで行ってたらすぐに先生は来ない。そう判断してやれやれと暗幕から出て行く。


「せっかくコスプレ可愛いんだからさ!ちょっと一緒に回って外で写真とろーよっ!ね!」



「や、あの、私…っ」



「失礼しますお客様。そういうサービスはやってないので、お引き取りください」


強引に山崎さんの腕を引く大学生Aの間に割って入る。山崎さんは今にも泣きそうだ。泣いた顔も可愛いけどね、マスカラ落ちちゃうからね。この野郎、うちの看板娘になんてことを。背後に庇いつつ、行っていいよと、暗幕の中へ下がらせた。


「おい、お前じゃねーからあの子だせよ」



「本人が嫌がってるので無理です」



「俺は君でもいいかなぁ」



突然割り込んで来た私に、あからさまに気分を害した様子のA。そして黙れ大学生B。


「他のお客様のご迷惑になるのでお引き取りください」


「俺たちもお客様だろうが」


「申し訳ありませんが、お帰りください」


言葉は選んだつもりだが、淡々と拒絶されたことが気に障ったのだろうか。チッつまんねー、じゃあお前が相手しろよ、と頭のおかしいセリフを吐いたAに胸ぐらを掴まれた。はずみで襟元のボタンが飛ぶ。ああもう、せっかくの衣装が。周囲から短い悲鳴が上がった。

大学生BとCがおいおいとAを宥めようとするが、本人はおさまりがつかないらしい。もっと強気に止めてくんないかなBとC。
状況が混乱するほど頭の中は冷えていく。怖いという感情を埋め尽くすように高速で頭が回転して、打開策を捻り出そうとする。
社会人の時も理不尽なクレームを処理させられることがあった。怒鳴ればいいと思ってるやつや、物に当たってビビらせようとするやつ。そういう奴には絶対に怯まないという根性がついた。ビビったら舐められる。胸倉を掴まれてるせいで足が浮きそうだし、顔も近い。チャラチャラしてるだけで大したイケメンでもないな。こんなところでナンパするくらいだからたかが知れてる。この場でこれ以上煽っちゃいけないと思いつつ、私が今日まで身を粉にして準備してきたものをものの数時間で台無しにしようとする輩に腹が立ってしょうがない。頭を下げてでもこの場から穏便に立ち去ってもらうか、先生が来るまで引きつけるかの二択は出ているのに、どっちでもなく怒りをぶつけようとする自分が勝ってしまう。


「たかだか高校生の文化祭で騒ぎを起こして満足ですか?ナンパはよそでやってください。迷惑です。それか警察呼びましょうか?」


「このガキ…っ」


言っちゃったー。肉体年齢に精神がつられてるのだろうか。思いっきり喧嘩を打ってしまい内心頭を抱えた。こうなったら先生が来るまでどうにか繋ぐしかない。目の前の大学生Aが手を振り上げようとした瞬間、教室の入り口に見慣れた顔と目があった。



「あ、先生こっちです!たすけて!」



叫んだ私に、振り上げられた腕がビタリと空中で止まる。先生という言葉に大学生連中が慌てた様子で後ろを振り返った。



「あんたら俺の教室でなにやってんの?」


良きタイミングで現れた長身の先生に凄まれ大学生が怯む。おお、大学生より迫力あるじゃん。大学生Cが慌てて、なんでもないですと取り繕い、大学生BがAを引っ張って出て行こうとする。怒りが収まらないAは盛大な舌打をかまし、私の胸倉を突き飛ばすように離すと、先生の横をすり抜けて教室を出て行った。先生がおい待てよと食ってかかりそうだったので、慌ててとめる。



「先生、ありがとう、助かった」



「誰が先生だよ、大丈夫か!?」



先生…もとい黒尾は買い出しの袋を投げ捨てて私の肩に手を置くと怪我はないかと慌てた様子で聞いて来る。黒尾がスーツ着ててくれて助かった。本当は殴られる寸前で先生が来たふりをして、油断したところで突き飛ばして距離をとりたかったのだけど。ちょうど戻ってきた黒尾のおかげでなんとかなった。


「平気、ちょっと迷惑なお客さん帰らせたかったの。もう大丈夫だから。……お騒がせして申し訳ありませんでした」


前半は黒尾に、後半はお客さんに言ってさっさと暗幕の中に戻る。ここへ来てやっと本物の先生が来てくれたので、一部始終を話して念のため他のクラスの見回りに行ってもらった。八つ当たりでほかのクラスでまで似たような妨害されたらたまったもんじゃない。
戻るなり山崎さんが飛びついて来て。他のクラスメイトも大丈夫?としきりに心配してくれる。いい人たちだなぁほんとにもう。ありがとありがと大丈夫だから、持ち場に戻ってーとそれを散らすが、黒尾だけが離れていかない。それどころか。


「こっちこい」


「ちょ、黒尾!どこいくの…!」


買い出しの材料をクラスメイトに押し付けた黒尾に手首を掴まれ、そのまま教室の外に連れていかれた。



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