意地っ張り





「ねぇ、なに。どしたの」


「……」



声を掛けても黙ったまま早足で進む黒尾。私の歩幅なんてお構い無しで進むから、小走りに必死でついていく。手首をつかむ手が強くて少し痛いくらいだ。廊下ですれ違う人達が何事かとこちらを見ては道を開ける。スーツ姿の黒尾とシャツにタイトスカートの私が連れ立っても、なんの宣伝かわからない。咄嗟だったから看板も手に持ってないし。どうせならコスプレっぽい衣装着た子と校内を回ってほしいんだけどな。そんなことを考えているうち黒尾はどんどん人気のない方に進んでいく。


「どこまでいくの?」


「…」


こっから先は立ち入り禁止の空き教室しかないよ?と、声を掛けたタイミングで近くの教室に連れ込まれた。


「腕離して」


「……」


行動の意味がわからないし、クラスの子たちだって呆気に取られてた。訳が分からないけどとりあえず痛いと主張すると、わりぃと素っ気なく言われてやっと手首が解放された。うわ、赤くなってる…。


「ねぇ、どうし…」


「お前さぁ、なんで先生待たなかった?」


食い気味に言われて、ただならぬ様子に気づいた。黒尾がめちゃめちゃ怒ってる。え、なんで怒られてるの私。たちの悪いお客さんを帰らせて、ほっとしたと思ったら今度は黒尾がご機嫌斜め。次から次へとなんなんだ。


「先生は呼びにいってもらってたよ、でも山崎さんが、」


「別にお前じゃなくてもいいだろ、助けんの」



こっちの言い分も言い終わらないうちに苛立ち混じりにそう言われてカチンと来た。なにその言い方。あの場にいなかったくせに。


「私はこれでも委員だし。やるからには責任だってあると思ってる。対処出来ると思ったから行動したの。確かにちょっと煽っちゃったのは良くなかったけど…でも、あの状況で先生が来るまで待つなんてできなかった」


捲し立てるように言った私はきっと、ピリピリしてたんだと思う。黒尾なら、良くやったとかさすがーとか、笑って言いこそすれ怒るなんて思ってなかったから。次の瞬間右腕を掴まれて壁に押し付けられていた。
至近距離からこちらを見下ろす黒尾の目には剣呑な光が宿っている。容赦ない力に体が動かせない。


「ちょ、と、なんのつもり」


「この状態で抵抗できんの?」


「は?」


状況についていけない。焦る私を尻目に黒尾の手は下に伸びて、タイトスカートのスリットを撫でる。そのまま手が太ももを這うのに従ってスカートが徐々に捲れ上がっていく。なになに、なにしてんの!?


「っ、なに。冗談やめてよ!黒尾!」


際どい位置までたくし上がるスカートを止めようと空いた手で裾を握るけれど、片腕は押さえ付けられたまま動かせない。片手で抵抗するには限界があるし、なにも言わない黒尾もこわい。すっと顔が近くなったと思ったら、鎖骨当たりを甘噛みされて背筋が震えた。ちょ、待って、なんで、どうして。待って待って。


「ねぇってば、やだっ、黒尾!」


切羽詰まった私の声に、ピタリと動きが止まる。
焦りすぎて若干涙目の私とようやく視線が合うと、何かを抑えるようにはぁ、とため息をついた。


「…さっきのヤツらが、仕返しに芳乃を捕まえて、今の俺と同じことしない保証あんの?」


「な、…」


なにそれ。唐突に、黒尾が怒ってた理由に思い至った。っていうか、怒ってたっていうか、、、それって。二の句が告げない私に、あからさまなため息をもう一度ついて。
押さえていた腕が離れたと思ったらそのまま抱きしめられた。素直に体重を預けると、ぎゅうと力が強くなる。


「…芳乃が、男に胸ぐら掴まれて。殴られそうになってんの見た時の俺の気持ちわかる?」


「………ごめん、」


「お前が頭いいのは知ってるし、責任感もあるのはわかってるけど。頼むからもうちょい危機感もて。力じゃかなわないんだから、ああいう時はちゃんと男を頼れよ」


「ごめんなさい」


宥め言い聞かせるような言葉に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。怒ったのは、頼るべきときに頼らずに、私が一人で無茶をしたから。
黒尾が来なくても、何とかなったかもしれないけど。あのまま私が殴られてたらきっと今頃うちのクラスは文化祭を楽しむどころじゃなかった。今更になって危ない橋を渡ったという実感が沸いた。気が抜けたのか、安心したのか、膝の力がかくんと抜ける。支えをなくした私と一緒に二人して床に座り込んだ。それにしても、だ。


「…でもさすがに、さっきの黒尾はやりすぎだったよ、本気で怖かった」


「いやー、だってそもそものコスプレがエロいのに、さらにいい眺めになってるからさぁ」



そりゃあやり過ぎちゃうよなー、と能天気に言われて自分の格好を確認すると、あろう事か胸元からブラが見えている。


「っ!?」


もともと第一ボタンを開けていたところに、胸ぐら掴まれて第二ボタンまで飛んだのだ。丸見えとまではいかないが充分恥ずかしい状態だった。クソガキ共許すまじ。ちなみに俺はパステルカラーが好きだな、とか意味深なことを言う黒尾は殴っておいた。




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