周りの目






文化祭の初日はあっという間に終わり、2日目は実行委員の仕事。後夜祭ももちろん裏方として駆けずり回り、文化祭の功労者としてクラスの中での地位が上がったものの、その後の打ち上げも片付け諸々に追われてほとんど参加できなかった。まじで疲れた普通に仕事するより疲れた。もう二度と委員はしない。


初日に黒尾と出ていって戻ってきてから、クラスメイトの女子達に、何があったの?告白された?とか質問攻めにあった。心配されて怒られただけだよと返しておいたが、嘘は言ってない。
正直私に危機感を覚えさせるためだけに、黒尾があんな暴挙に出ると思わなかったけど。力で勝てないのだから立ち回り方を考えろっていうのは大いに正論だったし、一瞬黒尾に悪い意味でドキドキしたことは胸に秘めておく。

ただ厄介なことに、文化祭のあとから私と黒尾が付き合ってるという噂がクラス公認みたいに広がっていることが解せない。

黒尾が私に構っているのをみて、生暖かい視線を向けるのはやめてほしい。あろうことか、廊下で出会い頭に海くんにまで付き合ったのかとか言われた時はげんなりした。嘘でしょ、噂話とかしなそうな海くんの耳にまで入ってるってどんだけよ。海くんには勿論その場で訂正した。黒尾にも当然その噂は入っているだろうけど、当の本人がのらりくらりと答えをかわし、積極的に否定してないことが余計に面倒くさいことになっている。


初めのうちは何を言ってるんだと否定して回ったが、黒尾が何も言わない中自分ばっかりが徒労を重ねていると思うと馬鹿馬鹿しくなって、そのうち適当に流すようになった。
どうせ文化祭終わりのカップル乱立期に煽られてできた噂だ。そのうち有耶無耶になるだろう。


そんなふうに楽観視していた私は黒尾の人気を舐めていたのだ。



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「あれ、体操着がない」


体育の前の休み時間。友達と連れ立って更衣室に行こうと、廊下に備え付けられたロッカーを開けて、おや?と首を捻った。持ってきたはずのジャージ一式丸ごと無いとはこれいかに。え、まじ?忘れたの?やばいじゃん。誰か余分に持ってない?と友達がその辺の女子に声をかけてくれる。そのやりとりに教室でそのまま着替えていた黒尾がひょいと顔を出した。


「なに芳乃、体操着ないの?」


「うーん、忘れたっぽい」


実際は忘れた覚えはないのだけど、この場で話をややこしくするのもな、と思い適当に相槌を打つ。仕方ない今日の体育は見学するか、と自分で結論付けていると、ポイっとジャージの上とハーパンが飛んできた。見れば黒尾はすでに着替え終わっており、Tシャツにジャージの下を履いている。


「それ着て出れば?腰紐絞めれば着れるっしょ」


「え、借りていいの?」


「俺部活用のも持ってるし、いつ返してくれてもいいよ」


黒尾がいつになく優しい。明らかにどちらもサイズが大きいけど、上は…腕まくりすればどうにかなるか?黒尾は半袖で寒くないのかと聞いてみたが、動き出したら結局脱ぐし、と言われありがたく借りることにした。



「…まぁ、うん大丈夫そうかな」


ハーパンのウエストは紐を絞って履いて、ジャージは袖を肘まで上げてみた。もちろん前は全部閉めてある。着てみると改めて黒尾との体格差を感じる。
体育は男子が外で女子は体育館だったので、その後黒尾と会うことはなかったが、クラスの女子からはなんか着せられてる感が凄いとややウケされた。洗濯して返そう。そして自分の体操服をあらためて頼まないとかな。なんだか面倒くさいことに巻き込まれている予感を感じながら、私は人知れずため息をついたのだった。


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結局あれから探せども探せども体操着は見つからず、それを機に地味な嫌がらせが続いている。無くなったもので言えばペンケースやポーチ。下駄箱の靴が水浸しにされてたこともあった。よくもまぁ、こんな古典的な悪戯を思いつくものだなと、半ば呆れている。原因はおそらく黒尾に関することかなぁと思ってはいるが。というかそれくらいしか思い当たる節がない。クラスメイトの女子は黒尾に対して友達以上の気持ちを持って接しているようには見えないし、実際以前そんなことも言われた。同時に他のクラスにはいるらしいということもその時聞いてたな。今の今まで忘れていたけど。

いつぞやに黒尾がファンの子から貰った紅茶を横流しされたこともあった。このクラスが普通にしてるから気づかないだけで、私は思ったよりも他の女子の恨みを買ってるのかもしれない。

やってくれたな黒尾め。これは完全なるとばっちりだ。大事にする気も無いが、ダラダラとこのまま続くのは勘弁してほしい。
とっとと犯人を見つけて直接対決するしかない。幸いやってることの規模からして、相手はせいぜい2、3人だと見当を付けている。人が多ければそれだけ気も大きくなってやることも大胆になるだろうし。あの黒尾に徒党を組むほどの人気はないと信じたい…てこれは黒尾に失礼か。


風が冷たくなってきた朝の通学路を歩く。
最近自分でも多くなったと思うため息をついて、さて今朝はなんだろうと下駄箱を開けた。結構身構えたが、意外にも上履き諸々は無事で、封筒が一通あるだけだった。勿論宛名はない。少し拍子抜けだ。今の状況でラブレターなわけないのは重々承知しているので、一旦バックにしまう。タイミングよくクラスメイトに挨拶され、教室まで行くうちにうっかりそのまま忘れてしまった。




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