追い詰める





次の日には夜久くんは先輩にお伺いを立ててくれたらしく。その日の夜にメッセージが来た。忙しい中仕事が早い。本当にありがとう、今度何かお礼をしないと。そんなこと考えつつ登校して、昼休みに入って早々に席を立つ。向かうは職員室だ。


「先生、今いいですか?お昼食べながらでいいんですけど」


声をかけたのは担任。いつぞや生徒に自慢していた愛妻弁当を食べていた彼は、声をかけたのが私だとわかると、さっと食べかけの弁当をまとめて進路指導室へと促した。


「お弁当美味しそうですね」


「美味いぞ。三池もそれ自分で作ってるんだろ?偉いな」


なんのてらいもなく美味いと言いきる先生に好感が持てる。私のお弁当を指し自分で作ってるんだろうと当然のように言われて、そういえば担任だし、うちの家庭事情を知らないわけないのだと思い至る。


「で?先生に動いてほしくなったか?」


「いや、うーん、ちょっと教えてほしいことがありまして」


「生徒の個人情報は教えられないんだが」


「とある先輩の進路が決まってるかと、進学先がわかれば知りたいんですけど…」


私のお願いに、先生は一瞬なんで?という表情を浮かべたが一転して渋い顔をする。そりゃそうだ、先生だって私一人のためにコンプラを犯すわけにはいかない。きっとこないだの一件と今日の話が繋がってることはわかってるはずだけど、やっぱり無理か…?ちなみに先輩の名前だけダメ元で伝えてみるが、色良い反応は見れない。

話を逸らすように怪我の具合はどうかと聞かれ、まぁまぁですと無難に返した。
その後も当たり障りのない質問に返しているうちに昼休みは終わってしまった。


##



「ねぇ、黒尾。夜久くんって何が好き?食べ物とか趣味とか」


「…え、なんで唐突に夜久?」


「お世話になったからお礼しようと思って」


午後の授業が終わり、帰りのHRを前に黒尾に夜久くんの話を振ると、あからさまに怪訝な顔をされた。いつの間にお世話になったわけ?という質問をのらりくらり交わす。この話し始めたら黒尾が先輩に辿り着いてしまう。いいから教えてよ、と尚も聞いてみるが、知らねェと頑なに教えてくれない。絶対知ってるくせにに妙なとこで意地悪するんだから。


「いいもん、じゃあ研磨に聞くから!」


黒尾が埒があかないので、研磨に聞こうとスマホを引っ張り出す。同級生じゃないけど部活仲間だし、趣味くらい知ってるでしょ。ちょうどメッセージを送ったタイミングで担任の先生が入ってきて、そのまま会話は終了して席に戻る。HR中ずっと黒尾がこっちを見てきたけどスルーした。


「三池ー、進路のことで話あるからちょっと来い」


HRが終わり、わらわらと席を立つ生徒たちに混ざって先生が私を呼んだ。進路というワードにピンとくる。もしかして。
弾かれるように席を立って先生のもとに行くとそのまま廊下に出て端に寄る。ちょいちょいと手招きされて内緒話のように顔を寄せた。


「前に桐海大気になってるって言ってたろ、今年の三年で推薦で合格もらった先輩いるけど話聞きたいか?」


自然に切り出された会話に、思わず先生の目を見た。あくまでもこれは進路相談。生徒が気になってる大学にたまたま今年合格した人がいるなら、先生が紹介するのは自然な流れだ。まぁ、私はそこが気になってると言った覚えはないけど。先生が思い違いしているのかもしれないし、ね?


「…是非聞きたいです」


「いつがいい?って言ってもむこうの都合もあるだろうし、そもそも後輩が受験の話聞きたいって言っても応じてくれるか分からんけど」


「なるべく早くで」


「わかった。じゃあ…まぁ、向こうの担任の先生づてで話通してもらうわ」


「先生、ありがとうございます」


色んな意味を込めて頭を下げる。先生はなんとも言えない表情で、あんまり無茶するなよ頼むから…と言い残して職員室へと帰ってく。その背中を見送っていると、ぐっといきなり肩に力が掛かった。


「進路の話にしてはやけに親密じゃん」


「黒尾…部活行ったんじゃなかったの」


後ろから覆いかぶさるように体重をかけられてよたつく。何話してたの?と聞かれたけどこれまた答えられない。


「ちょっと進路の相談に乗ってもらってただけだよ、ほんとに」


「…協力しろっていう割に、何にも教えてくれないじゃん」


「…」


本気で拗ねたような声に思わず黙ってしまった。私の肩に顔を埋める黒尾の表情はみえない。自分のことから派生してるのに、自分は蚊帳の外というのは確かに黒尾に対して配慮が欠けていたのかも、と少し反省した。


それから三日後。担任の先生から先輩との約束を取り付けたと連絡があった。日時は明日の放課後。場所は進路指導室の横にある資料室だ。先生には詳しく話してないものの察しているのか。危ないことをするなよ、双方ともだ、と念を押された。案外職員室と同じに並びの資料室を指定したのは先生かも知れない。
ここまできたらあとは直接本人に特攻するしかない。さすがにもう蚊帳の外は可哀想かと先日の反省を活かして、黒尾に経緯を語った。


「俺も行く」


「言うと思ったけど、駄目」


「なんで当事者が居たら駄目なんだよ」


「何度も言うけど黒尾は当事者じゃないから!それに、女同士の話合いに男が混ざると碌な事にならないの!経験則!!」


私の迫力に気圧されたのか黒尾はしぶしぶ外で待つことを了承した。代わりにこちらも折れて話合い中の通話を繋ぎっぱなしにすることを了承したけど。
約束の時間の前に資料室へ行ってボイスレコーダーも仕掛けておく。相手のタイプが未知数だけど開き直って全部喋ってくれたら万々歳だ。万が一何か起きても証拠になる。

胃がふわふわする。存外私も緊張しているらしい。今から相対するのは年下の女の子だけど、紛れもなく女で。どんな年齢だろうが恋する女は厄介なのだ。
部屋にはもう先輩がいるようだ。
深呼吸して、扉に手をかける。
現れたのが私とわかった瞬間、先輩に動揺が走ったのが見てとれた。

さて、はじめますか。



「はじめまして、先輩」



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