新しい季節





先輩はあれから何もしてくる気配はなくて。私の周りの地味な嫌がらせもぱったりとなくなった。それ以降黒尾の関係で面倒は起きていない。多分私たちの付き合ってる云々の噂がそのまま風化したからだろう。そして先輩は最後まで、黒尾に何も告げないまま卒業していった。


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学生のうちって本当に日々が目まぐるしく過ぎていく。気づけば私たちは三年生になり、黒尾とまた一緒のクラスになった。そして今年は夜久も一緒だ。


「夜久ー!一緒だねー嬉しい!」


「おー、芳乃。一年間よろしく!」


「あれ、やっくん?いつの間に芳乃のこと名前で呼んでるの?芳乃も呼び捨てになってるし」


休み明けの再会を喜ぶ私と夜久をみて黒尾が首を傾げる。なんかニ年生の頃よりまたちょっと身長伸びた?
あの先輩の一件で協力してくれた夜久に、私は後日お礼として手作りのお菓子をプレゼントしていた。研磨に夜久の好きなものを聞いたところ野菜炒めとかいう返信がきて、なんの役にも立たなかったからだ。形に残らないものがいいだろうと思って無難にお菓子にしたけど、よくよく考えたらそこまで仲良くない人から貰う手作りって結構怖いよね。今更か。なんだかんだそれ以降、夜久とはちょくちょくメッセージを送り合う仲である。


「え、夜久、芳乃に手作り菓子貰ったの?いつ?俺聞いてない」


「なんでいちいち黒尾に言うんだよ」


「俺貰ったことない」


一人ショックを受けている黒尾を置いて、教室に向かう。二年の時は三学期の席替えで離れたけど、今年はどうだろう。
黒板に貼られた席順を見てみると、


「あ、やったぁ夜久、隣じゃん一番後ろ」


私の名前は一番後ろの席にあり、隣はなんと夜久だ。運がいい。黒尾の名前を探すが結構離れてる上に前の方だった。残念離れたね、と黒尾を見上げる。


「やーっくん、やっくんの身長で一番後ろキツくなーい?俺が代わってやるから交換しよーよ」


「は?コイツ露骨に喧嘩売ってきたんだけど」


唐突に夜久に喧嘩をふっかけた黒尾はそのまま夜久にやんのかぁコラァ!としばかれている。新しいクラスメイトが若干引いてるが気にしないことにして、同じクラスの面々を確認する。うん、前のクラスの女子もいる、山崎さんもいる。嬉しい!
もう三年生かぁ、このままいくと私この世界でもっかい受験して、就活することになるのかな。しんどい。
けれど今すぐ帰りたいかと言われると、こちらの生活も幾分か馴染んできてしまったから、気持ちとしては複雑だ。
そんな哀愁に浸っているうちに、どうやら夜久と黒尾の決着がついたらしい。
私の席の横の机に鞄を置いた黒尾が満足そうに席についた。

なんだ結局交換したんだ。

そうこうするうちにHRが始まった。
やってきた担任にはとても見覚えがある。


「去年に引き続きのやつも何人かいるな、まぁ一年間よろしく頼む!」


そう挨拶した先生に安心感を覚えた。




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季節は六月。

新しいクラスも平穏無事に過ごしている。
友人によるとクラス内には黒尾のファンが数人いるらしいが、今のところ何もない。

五月に黒尾たちは宮城へ遠征に行って、練習試合をしたらしい。なんでも付き合いの長い因縁のある学校だったようだ。鳥っぽい名前だったと思う。相手の部にとびきり美人なマネージャーがいたとかで、帰ってきてからマネージャーの勧誘が一層うるさかった。
その後、人伝に一年生のマネージャーが入ったと聞いた。黒尾から直接聞かなかったことに多少の違和感はあったが、事あるごとに勧誘されるのにも辟易していたのであまり深く考えることはなかった。それなのに。



「頼む芳乃、合宿の間だけでいいから臨時でマネージャーしてくれ」


目の前で頭を下げる黒尾に、本気ではてなマークが浮かぶ。


「…え?マネージャー入ったって聞いたけど…ええ?」


合宿?合宿て去年も確か夏休みにやってたやつ?行ってないからよく知らないけど。正規マネージャーがいるのに私がいく意味なくない?いやまじで。


「頼む」


「なんで私が…」


「だめ?」


だめ?じゃないんだよ。小首傾げてそんなセリフ言っていいのはかわいい女の子だけだからな。大体、どうしてそんな必死になって誘うわけ?黒尾のことだ、合宿に友達を呼びたいなんて公私混同した理由じゃないだろう。


「なんか困ってることでもあるの?」


「…なんで。俺が来て欲しいだけだけど」


「嘘。強化合宿とお泊まり会は違うでしょ、その辺シビアに考えてると思ったけど。特に黒尾は」


「それはちょっと買い被りすぎだろ。ほんとに思ってるさ、芳乃が来たらおもしれーのになって」


「絶っっっ対何か企んでる」


「…企んでない、…こともない」


ほら見たことか。事の次第によっては協力しないこともないのだから、最初からそう言えばいいのに。詳しく話してよと促してみたが黒尾の口は重く、来てくれたらわかる、の一点張りだ。黒尾がそんなに勿体ぶるなんてなんか怖い。絶対にめんどくさそう。


「やっぱり嫌か?」


いつもの自信はどこへやら、おずおずと伺う仕草はなんかこう、庇護欲をそそる。真面目に言ってるのがわかるだけに厄介だ。心なしかいつものトサカが萎れて見える。黒尾のくせに…黒尾のくせに。悔しい、ノせられている気がしてならない。
ため息をついて黒尾の目の前に手のひらをかざす。形はパー。


「5回分」


「ん?」


「私の好きなタイミングで、コンビニスイーツを買ってくれる権利5回分で手を打つけど」


「ッ!、まかせろ」


どうだなかなかの贅沢だぞ。最近のコンビニスイーツはクオリティ高いし値段も強気だ。どうする?と黒尾を見れば、お安い御用だと即答された。その笑顔はなんだか純粋に嬉しそう。へぇ、そんな可愛い顔もするんだ。いつもニヤリって笑い方ばっかり見てるからなんか新鮮。

こうして私はスイーツと友達のよしみで合宿に参加することになった。


「ちなみに、合同合宿だから他校も来るぜ」


「え、なにそれ聞いてないんだけど」


「今言った」


このヤロウ。


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