厄介な女の子






「絵梨花ちゃん虐めるのやめてもらっていいすか」


「パワハラは良くないですよ先輩」


午前中の練習が終わり、汗で濡れたゼッケンをかき集めてランドリー室に持っていく最中。珍しく山本とリエーフが声をかけてきたと思ったら、やけに敵意のこもった声でそう言われた。ああ、なるほど。そうくるわけね。


「橋田さんにどう聞いたか知らないけど。他校のマネージャーに比べて、橋田さんの仕事ぶりが目に余ったの。それを伝えただけなんだけど…それで虐めは、ちょっと飛躍しすぎじゃない?」


「、っでも絵梨花ちゃんはマネージャーになったばっかりだし」


「一生懸命やってますよ」


「本当に?人の努力を比べるとかあんまりしたくないけど、同じような歴の谷地さんの方がよっぽど一生懸命にみえるよ」


見たままの感想を正直に言ってみる。彼らは彼らの練習で精一杯なわけで。他校のマネージャーとの仕事量を比較する暇などないだろう。


「それに、君たち二人は人の心配する前に、自分のことを一生懸命やった方がいいんじゃない?烏野の月島くんは夜自主練で黒尾とブロックの練習してるらしいよ。リエーフくん、君は?昨日の夜なにしてた?」


同じ一年生なのに、悠長に構えてていいの?と煽ってみる。案の定キッとこちらを睨んでくるものの、返す言葉が見つからないのか、ぐっと唇を噛んだ。


「っ、とにかく、バレー部にとって部外者のあんたにとやかく言われる筋合いはないんスよ。わかったら絵梨花ちゃんと俺たちの邪魔しないでください」


山本に子供の喧嘩のような捨て台詞を吐かれ。言いたいことだけ言って去っていく二人の背中を見送る。大方けしかけたのは橋田なんだろうが。恋は盲目というのか、なんというのか。部活中でさえなかったら好きにやってくれと思うんだけどなぁ。



##


今回の合宿はひたすらローテーションで練習試合をするという過酷なものだけど。学校同士の交流もあるのかメンバーをシャッフルしてみたりと面白そうなこともしてる。学校で固まってすらいないから、もう誰が誰だかわからない。とりあえず体育館はサウナ状態だし、熱中症にだけはならないでほしいと休ませたりスポドリを飲ませたりあちらこちらと動き回った。体を冷やすためにと持ってきていたアイスノンがぬるくなっているのに気付いて、冷凍庫の中のものと入れ替えようかと回収して回る。結構な量になったそれらを抱え、体育館を出ようとする。向かいから橋田が歩いてくるのが見えたので、避けるようにすれ違った。


「きゃあ!」


すれ違いざまに声が聞こえて、振り向くと橋田が床にへたり込んでいた。え、何。


「絵梨花、大丈夫か?」


「うう、手首捻っちゃったみたい…」


すぐさま飛んできたリエーフと、目の前で始まる茶番劇。痛いと右手首をさする橋田はこちらを見上げて一瞬ニヤリと笑った。


「先輩は、悪くないの!私が余所見してたから…」


目に涙を浮かべてそういう絵梨花に、リエーフが親の仇でも取るかのような目でこっちを睨む。絵梨花は嘘は言ってない。けど状況と、言い方と、それからリエーフには余計な事前情報がある。リエーフは十中八九、私がわざとぶつかって、絵梨花に怪我をさせたように受け取ってるのだろう。そもそも触れてもいないのだが、これはやられた。どうしたものかと考えていると、


「どうした」


「黒尾先輩…ッ」


やってきた黒尾に、案の定先程考えたのと全く同じ誤解をしているリエーフが事情を話す。話を聞いてこちらを見る黒尾に、アイスノンを抱えたまま何も言わずに肩をすくめてみせた。


「…とりあえず橋田は保健室行ってこい。一人で行けるか?」


すかさず項垂れる橋田に、リエーフが勢いよく手を上げた。


「俺がついていきます!」


「リエーフ、お前は練習に戻れ。橋田には俺が付き添う」


ため息をついて、代わりについていくと言った黒尾に橋田が少し頬を染めた。え、そういう感じ?てっきり山本とリエーフにチヤホヤされたいだけの感じだと思っていたけど。もしかして本気でオタサーの姫ポジションを狙いに行ってるわけ?正気?
彼女の思惑を垣間見て少し引いてしまった。黒尾は橋田に手を貸して立たせると、こちらを見て、気を付けろよと言った。その横で橋田が満足そうに微笑む。
言葉に含まれた意味をなんとなく受け取って、わかったと返した。


手首を負傷したとかで、橋田は前以上に部員のそばに張り付いていた。重い物を運んだり、片付けたりの仕事を免除してもらったらしい。元々その辺は私がやっていたから今更やることは変わらない。あとから一連の流れを聞いたらしい山本に突っ掛かられた以外は特に支障はなかった。

女の子って難しい。クラスメイトや友人はもっと気楽で付き合いやすいのになぁ、と考えても仕方がないことでため息がこぼれた。
彼女は彼女なりに理想的な部内の関係があるのだろう。それが客観的に見て良いか悪いかは別として。
けれどそれには多分信頼関係が必要だし、誰かから信頼をもらうにはそれに値する努力とか気持ちが見えないことには難しい。橋田の努力は地道に仕事をこなすということよりも見た目で気に入られる方向に振り切っていて、そうじゃない感が否めなかった。

黒尾はきっと私になにかを期待してこの合宿に巻き込んだんだろうが、当の橋田が聞く耳もたないどころか嵌めようとしてくるくらいだ。私自身が正式にマネージャーになる気がない以上、必要以上に首を突っ込むべきでないのもある。ああ、本当に面倒くさくなってきた。










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