最終日
色々あった日程を終えて、最終日。
BBQの準備を和気藹々とするマネージャー陣の中に橋田はいなかった。結局私のところに謝りには来ないまま、気づけば荷物が消えていた。まぁ、今の部長は黒尾だけど、卒業しちゃえばチャンスもあるんじゃないかと…うん、多分。
「谷地さん、今回は本当にありがとうね」
「いえ、そんな…。体調良くなってよかったです」
女子部屋に戻ってすぐに清水さんともどもお礼は言ったが、改めてそういうと、谷地さんは照れたように笑った。かわいい、めちゃくちゃ可愛い。谷地さんがいなければ、あんなに早く収束しなかったことを考えると谷地様と崇めたいくらいである。お礼にたくさんお菓子をあげたらとても喜んでくれて、連絡先も交換した。今度東京に来るときは遊ぼうね。
練習を終えた男子陣がわらわらとBBQ会場にやってきて、そこから先はお祭り騒ぎになった。さすが食べ盛りの男子高校生。あんなにあったお肉も野菜も瞬く間に消えていく。
「お、音駒のマネージャー!」
「木兎くん」
お肉の追加を持っていくと、梟谷の面々がいた。ほんとに色々お騒がせしましたと頭を下げる。あの騒動の体育館で練習していたのは音駒の他に梟谷と烏野も居たのだ。私が暴言吐いたのを見ていたのか聞いたのか、そのせいで一部の部員にビビられていた。あまり長居しても、と戻ろうとすると。
「俺、お前のこと結構好きだ!」
「はぁ、それはどうも」
焼き上がった串を差し出しながらよく通る声でそう言った木兎に、ありがとうとお礼を言って串を受け取る。暴言で距離を置かれてる私への、彼なりのフォローと受け取ったが、直後もの凄い勢いで黒尾が走ってきた。
「おい、木兎サラッとなに言ってんだお前!?」
「え、お前ら付き合ってるわけじゃないんだろ?」
「うん」
「そ、それは!そうだけど、お前、お前…ッ」
「木兎さん、そろそろ空気読んでください」
赤葦くんがどうもすみませんと頭を下げて木兎くんを引っ張っていく。なんでダメなんだ?とはてなを飛ばしながら木兎くんは遠ざかっていき、ごめんね、と何故か雀田さんにまで謝られた。
一体なんのやりとりだったのかと黒尾を見上げると気まずそうに目を逸らす。もういいもん、研磨のところいくから。そういうと、大きい犬のように後ろをついて来た。
「ねぇ、黒尾」
「ん?」
「…結局のところ、黒尾は私に何をさせたかったの?」
立ち止まって、後ろに呼び掛ける。明日には合宿が終わるけど、私は黒尾の意図に沿えたのだろうか。そう思って聞いてみる。周りはみんなBBQに夢中で、うまく喧騒に紛れてこの話は誰にも聞かれていない。斜面に腰を下ろした黒尾の横に、膝を抱えて座る。
「んー、見極めたかったんだよね」
誰を、とは言わなかったが。なんとなく橋田のことだろうと察した。本気でマネージャーをする気が有るか、否か、ということだろうか。私をけしかけて、ライバル視でも負けん気でもでて、真面目にやれば御の字だったとでもいうのか。実際は逆方向に作用したわけだけど。
「結果はどうだった?」
「いやー難しいよなー人間関係って」
苦笑いを浮かべる黒尾の視線の先には山本とリエーフがいる。一見して落ち込んでる様子はなかったが、二人は橋田が去ったことをどう思っているのか。少なくとも黒尾は部のために私を使う判断をしたけど、あの二人の恋路を邪魔したかったわけでもない。結果的に彼らの好きな人を目の前で吊し上げちゃったんだけど。私が。
「そうだね、難しいね」
そんな面倒くさいことを、黒尾はよくやってるよ、と座ってもまだ高い位置にある頭に手を伸ばす。ぽんぽんと慰めるように撫でると、黒尾がそっぽを向いた。