始まりの朝
目が覚めて最初の違和感。
目にうつったのは見覚えのある天井だった。うん、私の家の天井だ。でもまって、私昨日玄関で酔いつぶれたよね。無意識にベッドまで行ったの?いつの間に。
起き上がって二つ目の違和感。なんでちゃんとパジャマ着てるの。酩酊状態で着替えは結構ハードル高いよね。
部屋を見渡して三つ目の違和感。……なんで壁に女子高生の制服がかかってるの…?
「え、え??」
おーけー、落ち着こう。完全に二日酔いみたいだ。何をどうこじらせたら制服なんて買うのよ私。たしかに昨日一瞬高校生の頃みたいだァーとか言ったような気がしないでもないけど、だからってこれはねーよ。そもそもうちの高校の制服もっとダサかったじゃんか。なんでちょっと可愛いんだ。
混乱に次ぐ混乱で思考回路はショート寸前。今更だけど部屋の家具が若干違うような気がするし、第一こんなに整頓されてなかった。
ふと、机の上に見覚えのない荷物を見つけた。ダンボールの箱と封筒。中身は高校のパンフレットと、カリキュラムらしい分厚い資料。箱の中には学生鞄と教科書らしきものがどっさり。
『都立音駒高校』と書かれたパンフを開くと、目の前に下がってるのと同じ制服を着た女の子が自分の学校について語っている。
なにこれ。夢か、夢なのか。
用意された教科書に、カバンに、制服。あたかもこの高校に通えというお達しでもあるのかっていうくらい準備万端。いったいどうなってるんだ。封筒と一緒に入っていた便箋を開くと達筆な字で一言。
″訳あって、こっちの世界で暮らしてほしい 神″
思わず手紙を握りつぶした。
いやどんなわけだよ。雑!いろんなことが雑!
訳あって、を百歩譲るにしてもだ。こっちの世界ってどっちの世界?って感じだし、暮らしてほしいっていつまで?ずっと?なにそれこわい。そもそもこれを仕組んだのは一体誰なの。神って神?全能の神?たしかに昨日寝る前開き直ったけど、これは開きすぎて変な方向行った感じだ。こっちの世界とかいうくらいだし、素直にいくなら違う世界にいるのか、今。そんで、高校通えって?まさか、そっから人生やり直し?
ひぃぃ、制服ってこの歳で着ていいの…?犯罪じゃない??アウトじゃない?しかも現役の群れの中に放り込まれるんでしょ、浮く自信しかない。
と思いきや、ありがたいことに鏡に映った私はちょうど高校生くらいの歳に若返っていた。いや、ありがたいというか、この状況自体迷惑極まりないんだけど。それはそれとして、25歳が制服を着るっていう羞恥プレイは避けられたわけだ。
もう、学校行く前からこんだけ疲れてるのに、学生生活なんて今更おくれる気がしないよ…なにがどうしてこうなった。これで中途半端な時間が経ってあっちに戻ったら浦島太郎状態で、うっかり婚期逃してたりしたらほんとに許さないからな。
「はぁ、」
ひとしきり混乱すると、人は冷静になるらしい。取り乱すのに疲れたんだ、たぶん。ぼーっと資料の山をめくりながら数時間過ごすうち、思考が落ち着いてきた。
不安しかないが、いつまでも文句を言ってても仕方ない。神様とやらも気が済んだら元の世界に返してくれるだろうと割り切って、設定資料集と言う名の冊子をめくる。そこには私の設定?とやらが、記載されていた。
三池 芳乃
高校二年生
事故に遭い記憶喪失。そのため両親とは離れて暮らしており、現在は一人暮らし。
転校する前は埼玉の女子校に通っていた。
え、これだけ?
てか、重いんですけど過去が。
まぁ作り込まれてても覚えきれないけど。離れて暮らしてる理由とか聞かれたらどうしよう。正直に言ったらめっちゃ悲劇のヒロインよね。適当に方向性の違い?とか言っときゃいいかな。
資料集の横に置かれていたのは見覚えのない通帳と印鑑。まさかと思い開いてみると、そこにはちょっとリッチなサラリーマンの月収くらい金額が振り込まれていた。まじか、この企画(?)お金貰えるのか。これ月収ってことでいいのかな。やばい前の会社の給料より高いんだけど。振込元の名前はたぶんこちらの世界の親にあたる人だろう。いったいどんな仕事してたら娘にこんだけ仕送りできるの。
色々と疑問はわくけど、とりあえず今は環境に慣れることが先決だ。明日から学校が始まるようだし、一度学校までの道を下見しておこう。ついでに付近も散策してみようかなーなんて。思ったより前向きに現状を受け止め始めている自分が不思議だった。