悪い予感






※黒尾視点



部活に行く途中。いつも芳乃と一緒に帰っているはずの山崎さんが一人でいるのを見かけて、声をかけた。



「あれ、山崎さんひとり?」



「うん、芳乃ちゃんは三枝先生に呼ばれてるんだって」



「三枝に?」



気になる名前が出て眉を顰めた。昼間、廊下で芳乃と三枝が話していた姿が脳裏に過ぎる。妙に親密な距離が面白くなくて声をかけたが、芳乃は酷く動揺している様に見えた。先日のこともあってあまり無理に事情を聞くのが憚られ、そのまま流したが。


「そうみたい、あんまり具合良くなさそうだったからちょっと心配」


体調でも悪かったのだろうか。最近は距離感を測りかねていて、芳乃とあれこれ話す機会が減っている。元より、俺から絡みに行くのが常だから、それを控えた途端に機会が減るのは当然だった。山崎さんの話を聞いて、昼間のこともありなんとなく嫌な予感がする。


「ふーん…三枝って授業ない時どこにいるか知ってる?」



「えー、たしか進路指導室だったかな。職員室の横の。昼休みに友達が凸ってた」



「そっか」


部活に行く前に、進路指導室に寄ってみるか。今日は職員会議で顧問がいないので、部活は自主練だ。メニューは既に伝えてあるし、すこし遅れてもその分残れば大丈夫だろう。遅れることだけ研磨には伝えておくか。スマホを取り出しながら、じゃあまた明日と声を掛けたが、山崎さんはその場を動かずに、じっと俺を見上げた。



「黒尾くん、芳乃ちゃんと何かあったでしょ?」



「…やっぱバレるよな」


いきなり飛んできた鋭い質問に、苦笑いが漏れた。そんなにわかりやすいのか?今までこんなことあったっけと思い返すが、そもそも自分から誰かを好きになったのは初めてだったと思い直した。


「そりゃあ、二人のこと去年から見てるしね」


「…山崎さんから見て、俺ってまだ可能性あると思う?」


芳乃が女子の中で一番一緒にいるのは山崎さんだと思う。その彼女からみて俺にまだ望みはあるのかと、ふと聞いてみたくなった。もしかしたら何か芳乃から相談されてたりして、と聞いてから少し不安になる。唐突な俺の質問に山崎さんは目を丸くした。


「意外。黒尾くんでもそういうこと考えるんだ」



「どーゆう意味よ」



「ふふ、ごめんね。逆に聞くけど、仮に芳乃ちゃんが別の人を好きで、黒尾くんに可能性ないよって言ったとして。諦めつくの?」


辛辣なほどストレートに言われた言葉に、頭を殴られた様な気がした。芳乃が誰かと。考えてみればそんな可能性は当たり前に転がってるし、現に木兎みたいなド直球もいる。芳乃が恋愛を避けているだけで、その気になったらきっとすぐに彼氏はできるだろう。そうなったら、もしそれが俺以外だったら、俺は…。



「…絶対つかない」



「じゃあ、可能性がどうのとか関係ないんじゃないかな?」



「意外に手厳しいね、山崎さん」


にっこりと笑ってそういう山崎さんに怯む。クラスで一番、いや学年でも可愛いで評判の山崎さんは見た目のイメージよりもだいぶいい性格をしている。芳乃と気が合うはずだ。去年から同じクラスなのにそんなことを今更知って、それ程に芳乃以外の女子に関心が無い自分に呆れた。



「だって、お互い気にしてるくせに、ずっとイジイジしててまどろっこしいんだもん」



「はは、ごめん」



「頑張ってね、黒尾くん。芳乃ちゃんはなんでもできてカッコいいから。早くしないとあっという間に誰かに取られちゃうよ」


不安を逆撫でする様に俺を煽るだけ煽った山崎さんは、じゃあねとあっさり帰っていった。すぐにその足で進路指導室に向かう。バレー部は自主練だが、他の部活は休みのところも多い。人気の減った廊下を早足で歩く。



「えー、三枝先生いなかったのー?」


「いなかった、職員会議でてるのかも」


「いないなら、もう帰ろ?」


すれ違った女生徒の会話にハッとした。進路指導室のある方から歩いてきたであろう女生徒達。職員会議にたかだか教育実習生が出るはずがない。それに、芳乃が三枝と話しているはずなのに。進路指導室でないなら、一体どこへ?
念のため自らも進路指導室まで行ってはみたが、人がいた気配すらなかった。踵を返し教室に戻る。教室の芳乃の席には上着と鞄が置かれたままだった。芳乃のスマホに電話する。数秒も経たないうちに目の前の上着からバイブ音が鳴りだして思わず舌打ちした。杞憂ならそれでいい、けどこの悪い予感は一体何だ。焦燥感に突き動かされる様に、廊下にでる。他のクラスにいるとは考えずらい。とすると、専門教室か?いや三枝の担当は社会だ。理科室や音楽室の様な部屋はない。そもそもそんな特殊な場所に呼び出す時点でおかしい。あとは。


「社会科資料室か」


授業で使う地図や小物が保管されている部屋だ。授業前の準備以外で人が立ち入ることはないし、ましてや普段生徒は使わない。唯一使う教師陣はまとめて職員会議の真っ最中。別棟にあるその部屋に向かって、弾かれる様に駆け出した。





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