悪夢のような
※暴力表現有り
焦ってドアの細工を外しにかかる。私が無理やり開けようとしたせいで溝に咬ませた細工はビクともしない強度になってしまっている。数センチしか開かなくなった扉は、こちら側にはめ込んであるせいで向こうに蹴り倒すことも出来ない。完全に嵌められた。距離を詰める三枝に言いようのない危機感。うそうそうそ、まじ!?学校内だからって油断した。こいつ正気!?何する気だ。
「これで君は逃げられない。随分舐めた口聞いてくれたよね、ガキのくせに」
唐突に腕を掴まれ、ドアから引き剥がされて資料室の床に転がった。したたかに膝と肘をぶつけ、痛みに気を取られたすきに、あっという間にマウントポジション。優越感と下心を滲ませた視線に、ガキはどっちだと言い返す気力を奪われた。
「さっきの威勢はどうしたの?怖い?これもひとつの勉強だよ、力じゃ勝てないんだから態度には気をつけないと」
笑みを浮かべながら、シャツのボタンが外される。抵抗しようとした腕はやつの片手で軽々と拘束されて。こんな最低なやつの口から勉強なんて言葉が出ることに吐き気がする。
力じゃ勝てない…似たようなことをたしか黒尾にも言われたな。同じ言葉でも使う人で意味が全然違う。黒尾は私のこと心配して言ってくれてたのに…思い出したら鼻先がツンと痛くなった。泣くな。ここで泣いたって調子に乗らせるだけだ。
はだけたシャツとまくり挙げられたキャミソール。肌の上を直に触られて鳥肌が立つ。気持ち悪い気持ち悪いキモチワルイ。
黒尾に謝らなくちゃ、こんな私のこと心配してくれてたのに、私の自分勝手で素っ気なくして。ほんとにごめんなさい。こんな時に限って黒尾の事ばかりが浮かぶ。そんなことされた後でどの面下げて黒尾に答えられるっていうの。
カシャッ、カシャッ
不意にシャッター音が聞こえて、絶望的な気持ちになった。喋れるもんならってそういうこと…?
「…なにして…」
「弱味は物理的に握っておかないと、ね」
こちらに向けられたスマホの画面をみて驚愕する。画面には今撮られたであろう私以外にも似たような写真が何枚も並んでいた。アプリで普段は見えないようにしてるから安心して?と歪んだ笑顔を見て、確信した。こいつやり慣れてる。下も撮っておこうか、と太ももに手が触れて総毛立つ。
「っ、嫌!離して、!」
「今更抵抗しても遅いよ」
「だれか!先生!黒尾!!」
「うるさい」
バチンと音がして、頬が熱くなる。口の中に血の味が広がる。殴られた、と自覚した瞬間さらに声を張り上げた。生理的な涙が目の端から溢れていく。怖い。怖いけどここで抵抗しないと取り返しのつかないことになる。
無意識に黒尾の名前を呼んだことには気付かなかった。次の瞬間けたたましい音を立ててドアがこちら向きに倒れて来るのが見えた。私に馬乗りになった三枝に直撃する。痛みにうめいた三枝の脇腹に誰かの足が見えたかと思うと、今度はドアとともに真横に蹴り飛ばされた。ガッシャーンと派手な音にびっくりして咄嗟に目を瞑り、開いた視界に立っていたのは。
「芳乃…ッ」
「…なんで、」
正真正銘、黒尾だった。走ってきたのか肩で息をしている。何が起こったのか、理解ができない。まるでマンガのヒーローのように颯爽と現れた黒尾は、私を一瞥してすぐにカーディガンを脱ぐとそのまま肩にかけてくれた。呆気に取られて忘れてたけど酷い格好だった。慌ててキャミを下ろしてブラウスの前を掻き合せる。腕を引いて引っ張り起こしてもらって、咄嗟に床に落ちていた三枝のスマホを握りしめた。腰が抜けて歩けない私を黒尾がひょいと抱えあげて、足早に資料室を出る。三枝は蹴り飛ばされた衝撃から立ち直っておらず、蹲ってうめいていた。状況についていけないながらも、黒尾がいることと、貞操の危機を脱したことに安心して力が抜けた。