顛末
研磨によって、保健の先生と担任がやってきた。研磨は黒尾からなんと連絡を受けたのか、怪我をした私に泣きそうに顔を歪めて、無事でよかったと震える声で言った。
私の様子と、三枝のスマホと、黒尾の話を聞いて、担任が見たことないくらい怒っていたのがとても印象的だった。そして私から直接経緯を聞いて、私の事情を話したことを誠心誠意謝られた。別に先生を責める気はなかったし、まさか教育実習生がこんな悪質な犯罪に手を出すだなんていったい誰が予想できただろう。先生のせいではないですと、再三言っても、先生は聞き入れてくれなかった。もし自分の娘がそんな目に遭ったら正気ではいられないと、そういう先生の目に涙が浮かんでいて。お金の振込とメッセージのやり取りをするだけのこの世界の親よりもよっぽど愛情深いなと思ったりした。
先生がくるのと間を置かずに警察が来て社会科資料室でノビていた三枝をパトカーに乗せた。黒尾が扉を蹴破ったのと、三枝の脇腹にも一発見舞ったことはあっさりと正当防衛で処理された。私の提出した三枝のスマホから余罪が出まくったせいもある。生徒自体が少なく、目撃者もいなかったことから、校内での事態は迅速に収束し、あの日から学校に姿を見せなかった三枝は、一身上の都合で実習を中止したという話でそのままうちに戻ってくることはなかった。
しばらくしてから三枝が暴行で捕まったという噂がまことしやかに流れて、一部の女子生徒は「先生になら、抱かれてもいいかもー」とか馬鹿みたいな事言ってたけど。その度に黒尾が人知れずめちゃくちゃ機嫌が悪くなって宥めるのが大変だった。
かくいう私も自分が経験者じゃなかったら何の感想も抱かないかもしれないけど…正直あんな思いは二度とゴメンだ。思い出すだけで嫌悪感で吐きそうになるし、あれから資料室には近づけない。
後からわかったことだけど、あの資料室は元々実習生の待機場所ではなかったらしい。どおりであの部屋付近に生徒がいなかったはずである。初めから私が靡こうが靡くまいが目的は変わらなかったのだと知って、背筋が凍った。
頬の怪我は山崎さんに引くほど心配されたけど、マンションの階段で転んだのだと誤魔化した。足にもいくつかアザができていたけどタイツを履いても違和感のない季節だったこともあって事なきを得た。変に休まずに登校し続けたことで、事件の被害者が誰かという噂は聞かないし、幸いにも学校側は私の人権を全力で守ってくれた。この件は私以外に研磨と黒尾の中だけの秘密である。
雨降って地固まるとはよく言ったものだ。私の場合は台風並みの豪雨だったけど。
あれから私と黒尾ははれて恋人同士になった。正直私は今までとそんなに変わらないんじゃないかなぁとたかを括っていた。だって、今までも黒尾はなにかと絡んできたし、スキンシップも多めだったし今更関係に名前がついたくらいで、何かが変わる気はしなかった。
結論から言うと全然全くそんなことはなかったのだが。
「黒尾、近い」
「そうか?別に彼氏なら普通だろ」
なんかもう近いというかゼロ距離なんだけど。背中から抱きしめられて会話するなんて、一体どこのバカップルだよいい加減にしろ。家ならまだしもここは教室!みんないるの!距離をとりたくてバタバタもがいてみるも、黒尾に腕力に勝てるわけがない。付き合った次の日からあからさまに態度がベタ甘になったせいで、クラスメイトには一瞬でバレた。あ、やっと付き合ったんだ、長かったね。とか、黒尾が報われて本当によかったとか、黒尾よく頑張ったとか、やたら黒尾への労いが多かったのはなんでだ。私がしばらく態度悪かったから?
彼氏なら普通、彼氏ならオッケー。最近の黒尾がことあるごとに使う言葉だ。今までもパーソナルスペース狭いなぁと思ってはいたけど、あれでも黒尾の中では抑えていた方らしい。暇さえあればくっついてくるのが鬱陶しくて、授業終了のチャイムと共に教室から走って逃げた。