手紙
黒尾から逃げた先で、そのまま自販機に飲み物を買いに行ったら、たまたま海がいた。一緒にジュースを飲んでいると、黒尾とはどう?とタイミングのいい質問が飛んでくる。
「黒尾があんなタイプだったとは…予想外」
「黒尾も片想いが長かったからな」
う。それはなんかごめんなさい。黒尾から懐かれているとは思っていたけど、いつから友達以上に認識されていたのか、聞いたことはなかった。それこそ合宿の後らへんからそんな気がしないでもなかったけど。そもそも高校生やり直しのこの世界で、恋愛というものを最初から切り離して考えていたから。アプローチがあってもきっと無意識のうちに考えないようにしていたのかもしれない。
「まぁ、あんだけ露骨な黒尾も初めて見るけどな」
「え、そうなの?今までも彼女いたんでしょ?」
「あんなのいた内に入るのか?」
「いや私に聞かれても。その辺全然知らないし」
「それもそうだ。でも今まで見たことないくらい黒尾がデレデレなのは確かだ。結構気持ち悪い」
黒尾、友達にまで気持ち悪いって言われてるよ…。歴代彼女がどうとかって話自体、気にしてなかったけど、そういえばこの学校の中にまだ元カノがいる可能性は全然あるよね。ちょっと怖くなってきた。やっぱり黒尾にはもう少し適切な距離を取ってもらおう。
##
「自販行ってたのか?」
「そう。これお土産。黒尾の分」
「サンキュー!」
教室に戻るなり寄ってきた黒尾は私の手元を見てそう言った。ついでだしと買っておいたサイダーを黒尾に手渡す。
自分の椅子に座ろうとすると、黒尾がすかさず先に座り、いい笑顔でポンポンと膝を叩いた。マジで…お前…。ため息をついて隣の子の椅子を借りて腰を下ろす。
「ねぇ、黒尾。いい加減学校でベタベタするのやめて」
「え、無理」
「こっちが無理」
即答で無理と言われて、こちらも無理だと突き放した。じぃと不満げな視線を送ってくるが、これに負けては私の精神が削られ続けてしまう。
「みんないる前でそう言うことされるの気まずいし恥ずかしいの。だからもう少しだけ抑えて?」
「じゃあ人前じゃなきゃいいわけ?」
鋭い切り返しに、言葉が詰まる。そりゃ、まぁ、私だって黒尾が好きだし?二人だけの時にだったら、抱きつかれようと全然かまわないけど。なんかここで人前じゃなきゃいいと言ってしまったら、なんかまずいような気もする、本能的に。
「うーん…まぁ、二人きりは、別として学生として節度ある行動を心がけてくれたらありがたいと言いますか…」
「先生かよ」
言い方が難しい。困り果てる私をみかねて、あまり納得した様子ではないものの黒尾は善処すると言ってくれた。善処って往々にして果たされないよなと思わないでもないけど。
##
学校から帰って、一息。部屋にカバンを置いて、そのまま着替えて。制服をハンガーにかけたところでそれに気づいた。
「これ…」
自分の机の上に、見覚えのある封筒が置かれていた。すぅ、と血の気がひく。私の記憶が確かならこれと同じ物を前に見た。初めてこの世界で目が覚めたあの日に。
神と名乗るものからの手紙。クローゼットの中に箱にしまって置いてあったはずだ。今更それが勝手に机の上に出ることなどあるのだろうか。
もしくは二通目。
クローゼットを開き、箱を確認する。中には同じ色形の封筒が確かに入っていた。ということは、机の上にあるものは新しい手紙である。この世界に来て以降、一切音沙汰のなかった神とやら。今更手紙をよこした理由は一体なんだろう。嫌な予感に胸が苦しくなる。まだ黒尾には私の背景は伝えられていない。
恐る恐る机の上の新しい手紙を手に取る。もしも。もしも元の世界に戻るという内容だったら、私は。手が震えてうまく手紙を取り出せない。一通目の手紙は簡潔な内容だったのに対して、二通目は紙の束が多かった。見覚えのある達筆な文字を目で追うものの、内容がうまく頭に入ってこない。
「そんな…」
一人きりの部屋で、自分の呟きがやけに大きく聞こえた。