萌え萌え
「ひぇーーすっごいなぁ」
店内に入った瞬間、所狭しと並ぶマンガやアニメのグッズに圧倒された。場所は知ってたけど入るのは初めてだ。黒尾は研磨にくっ付いてよく来るらしく全然動じてない。研磨はというとお目当てのゲームコーナーへ直行だ。バレーやってる時並に素早い。あとほんの、ほんのちょっとだけ表情が緩んでいる。可愛い。
遠くから眺めていると隣で黒尾が適当に棚を見ながら話しかけてくる。
「芳乃はこういうの好き?」
「うーん、アニメより漫画派なのと、あんまりキャラグッズ?とか興味なかったからなぁ。こんなにあるんだね、色々」
「俺も漫画はジャンプ買って読んでるくらいだから、初めて来た時はビビったわー」
どこを見ても漫画アニメ一色の店内。お客さんもテンションが高い。なんか目がキラキラしてる。すごいねー、日本の文化。視線を上げるとキャラのポスターが目に入った。大きすぎないかあれ、てか、布製…?
「見てすごい、シーツだって!抱き枕とかある!!」
思わず黒尾の腕を引っ張った。なんのキャラかは分からないけどキラキラした男の子が描かれたシーツがディスプレイされている。シーツって!発想が斬新すぎる。
なにこれ敷いて寝るの?寝れる?これ。好きなキャラの上に寝れるもん?ドキドキするのかな?
「黒尾、可愛い女の子のシーツもあるよ?」
「だからなんだよ」
「買ってもいいんだよ?思春期でしょ?」
「買わねーよ!」
「あー、そうだよね、黒尾は抱き枕派だよね」
「お前…っ」
「クロ、なに騒いでるの」
「あ、おかえり研磨。ゲーム買えた?」
「うん、限定版」
「よかったねー。黒尾が抱き枕買いたいらしいからちょっと待ってよっか」
「嘘言ってんじゃねぇよ」
べしっと頭をはたかれた。ちょっとからかっただけじゃんかー。目的を終えて、出口に向かいながら商品棚をひやかす。
「なぁなぁ、この中だったら芳乃は誰が好き?」
黒尾が指さした先にはなんかすごいいっぱいイケメンの男の子が描かれたポスターが。唐突だな。どうしたの。
「私このマンガわかんないんだけど」
「俺もわかんねーから大丈夫。見た目だけで選んで」
「えーー」
研磨まで黙って選ぶの待っている。見た目だけって逆に難しくない?順番にポスターを見ていく。この子小学生キャラじゃない?うさぎ抱えてるし。こっちは金髪で袈裟着てるよ?ちょっと世界観がよくわからない。うーんと、とりあえず学生っぽいのは除外して、、
「この眼鏡の人かな」
指さしたのはスーツで眼鏡のキャラだった。理由はなんか一番まともそうだから。
「まさかのインテリ系…」
「なんで?」
「頭良さそう、働いてそう」
「基準そこなのかよ」
黒尾が呆れた声を出す。君たちには分からないだろう。大好きな少女漫画のヒーロー達がずっーーと高校生で、学園モノに共感できなくなってって。気付けば異世界ファンタジーものばっかり読んでしまう私の気持ちなんて…!
漫画は大好きだし、恋愛ものも大好きなのに、高校生ってだけで学園一のイケメンの設定とか全然入り込めないんだよ。いい加減漫画離れしろってことだと思うけど。私は抗い続ける…!
口には出せない葛藤をしながら、そう言えばいまなら堂々と学園モノが楽しめるんじゃないかと思い至った。
うん、帰りに少女漫画買ってみよう。
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「芳乃は部活やらないの?」
適当に入ったファーストフード店でお昼を食べてるさなか、研磨がおもむろに聞いてきた。今日はいつもより研磨がよく喋る気がする。横では黒尾が早くも2つ目のハンバーガーに取り掛かっている。腹ペコなんだね、たんとお食べ。私のポテトも食べていいよ。
「うーん、タイミング逃したし…興味引かれるものもないしなぁ」
「じゃあバイトは?」
「バイトかー」
「社会経験とか?コミュニケーション能力もあがるし?なにより小遣い増えるし」
お金にはこまってないし、社会経験はもう既にあるんだよなぁ、なんて絶対に言えない。なるほどコミュニケーション能力ねー。今更だな。私コミュニケーション取れてないのかな周りと。上手くやってるつもりだったんだけどもしかして浮いてたりする…?
「メイド喫茶とかやれば?」
ニヤリと笑う黒尾に、反論する気持ちを抑えていったん想像してみる。ただでさえ私の中では日常で女子高生の制服を着ていることが既にコスプレだ。コスプレに次ぐコスプレ…いやぁ、きっついな。
「え、何。"おいしくなぁれ、萌え萌えきゅん!"とかやればいいの?」
「芳乃、真顔で言わないでよ怖い」
怖いっていうな。裏声で接客ってのもハードル高いし。メイド喫茶は却下。ていうか、なんで数あるバイトの中からメイド喫茶をチョイスしたの?
まさか黒尾…
「そもそもなんで突然メイド喫茶なの。ひょっとして黒尾はメイドさん萌えなの?」
「クロ…」
「違うって!あそこに看板があったから!」
研磨の引き気味な視線を浴びて、黒尾が慌てて指差す方向には、バイト募集の看板があった。ああ、あれかー、そういやここら辺多いよねメイド喫茶。行ったことないけど。
「やることないならバレー部のマネージャーやればいいのに」
ズコーっと音を立ててジュースを飲みきった研磨はそう言い残してトレイを下げに行ってしまった。その手があったか!と目を光らせる黒尾に嫌な予感しかしない。え、バレー部のマネージャー?無理無理、なんかすごい体育会系な響きじゃん。私インドア。超インドア。文系。
「芳乃なら大歓迎だぜ」
「いや無理」
速攻で断ったら、黒尾がちょっと拗ねた。