排球部員
午前の授業終了のチャイムと共に席を立った黒尾が、私の前に立ったかと思うと。
「芳乃、昼メシ一緒に食おう」
「え、なんで」
名誉のために言うが私は決してボッチではない。お昼ご飯を一緒に食べてくれる女子の友達はいる。だから勿論黒尾に誘われても断るわけなのだが、何故か友達は一緒に食べてあげなよ、黒尾が可哀想じゃんといい笑顔で送り出してくる。可哀想?なんで?よくわからないうちに教室を追い出され、黒尾の後ろにしぶしぶ付いていくことになった。
先日一緒に池袋で遊んでからというもの、黒尾は余計に絡んでくるようになった。あれから席替えをして、前後の位置関係から離れるかと思ったものの。まさかのくじ運で今度は隣同士になったせいもあるのかも知れない。
腹減ったーと呑気にのたまう黒尾はどんどん階段を上がっていく。どうやら屋上に向かってるようだ。
「あ、そういえば部活の奴らもいるから」
「は?」
何の気なしにそう言って黒尾は屋上のドアを開けた。初夏の風と太陽の眩しさに一瞬目を細める。中央に陣取る男子生徒たちの視線に気後れした。てっきり居ても研磨くらいかと思っていた。なんでこの面子に私を呼んだのか。意味がわからない。部活仲間の輪に突然入れられる身にもなって欲しいめちゃくちゃアウェーだ。
「芳乃だ、クロに連れてこられたの?」
研磨がもぐもぐとおにぎりを頬張りながらそんなことを言って、こっちに座る?と場所を空けてくれた。空けなくていいんだ今すぐ帰って友達の輪に戻りたいんだ。
「黒尾、この子は?」
「俺イチオシのマネージャー候補、三池 芳乃ちゃんです!」
「ちょっ、」
黒尾の自信ありげな声に、へぇと視線が刺さる。本当にやめてくれ頼むから。屋上にいたのは研磨以外に4人。それぞれ名前を教えてもらった。背の高い子が海くん、小柄なのが夜久くん、物静かそうなのが福永くん、目つきが厳ついのが山本くんだそうだ。覚えられるかなぁ。海くん、夜久くんは同級生、福永くん山本くんが一個下らしい。三年生が引退したら主力は二年生の黒尾たちだ。なんとなく黒尾よりも他二人がしっかりしてそうで安心した。
「黒尾が勝手に言ってるだけっぽいな、ごめん三池さん」
「いや、夜久くんが謝ることじゃないから」
夜久くんに申し訳なさそうに謝られて恐縮してしまう。黒尾に勧誘される時は一も二もなくバッサリ断るのだが、いざバレー部の面々を前にしてマネージャーをする気はないと言う度胸はない。部活自体は応援しているのだ、私には荷が重いと言うだけで。
「まぁまぁ、座ってよ。俺は芳乃に部の奴らを紹介したかっただけなんだって。あわよくばそのままなし崩しにマネージャーになってくれてもいいんだけど」
「後半が本音だな」
私の肩を抱いて研磨の横に座らせた黒尾は、そう言って海くんに突っ込まれていた。研磨は気にしてなさそうだけど、福永くんと山本くんはいきなり先輩が来て気まずくさせてないだろうか。
というかさっきから山本くんと視線が合わないのだけど、やっぱりいきなり嫌われているのでは?
こうなったらさっさと食べてさっさと戻るしかない。持参したお弁当を広げれば、横から黒尾が美味しそうと卵焼きを取っていった。っとにコイツは…!
「あ、美味い。俺これ好きだわ」
「そのお弁当、芳乃の手作りなの?」
「そうだよ」
前日の夕飯の残りと卵焼きと冷凍食品で構成されているので大した手間ではないのだけど。勝手にとっていった黒尾は別として、研磨もなんかいる?とお弁当箱を差し出すと、卵焼きを持っていった代わりに、研磨のお弁当に入っていたかぼちゃの煮付けをくれた。
うん、甘くて美味しい。ついでにさっきから山本くんと視線が合わないことをコソッと伝えてみる。
「虎は女子と喋るのが苦手みたい」
「あ、そういうこと」
言われてみれば若干挙動不審に見えなくもない。単純に初心ってことね。極端に嫌われていなければ別にいいか。
福永くんに関しては表情が読めな過ぎてわからない。研磨もローテンションだけど、海くんも穏やかそうだし、皆あんまりガツガツして見えないから、この人たちが試合になったらどう顔つきが変わるのか、そこにはちょっと興味が湧いた。