渦巻くは
「ほんとに、ありがとうございます佐助さん」
まさか迎えに来てくれると思わなかったから、凄く嬉しくて、照れくさい。お礼を言いながら受け取った傘を開こうとすると、胡散臭い笑顔のままの佐助さんにひょいと傘を取り上げられてしまった。
え、なんで。
「佐助さん?」
「せっかくだから、俺様も一緒に入ろうかと思って」
にっこり笑って自分の傘を差し出す佐助さん。その笑顔に違和感を感じる。
不思議に思いながらも促されるまま傘に入って、歩き出す。ビニール傘よりもひとまわり大きい傘は、ぴたりと寄り添えばどちらの肩も濡れることは無かった。
歩き出してから会話はなく、何でまた気まずくなってるんだろうと頭を悩ませる。考えても思い当たらなかったので、もうここは直接聞いてみることにした。
「……佐助さんなんか怒ってます?」
「……」
「あの、」
「さっきの誰?」
しばらく間が空いたと思ったら、返ってきたのは、何でそこ?と思うような質問だった。
「バイト仲間です」
「ほんとにただの仲間?」
「当たり前じゃないですか。なんでそんなこと聞くんですか?」
「別にー」
いやいや、そっぽ向いて別にーって子供じゃないんだから。なぜかご機嫌斜めな佐助さんは、それでも傘を持つ手はしっかりと中央にあって。歩幅も違うはずなのに私に合わせてゆっくり歩いてくれているのがわかる。真横にいる分あんまり感じないが、肩が触れ合うほど近くにいると思うと今更ながら少し緊張してきた。
「なんか、佐助さんと相合傘ってちょっと照れますね」
「……さっきもしてたくせに」
「そう言えばそうですね...なんでだろ、丸井くんのときはなんとも思わなかったのに...」
「……」
確かに佐助さんの言う通りである。ついさっきまで丸井くんともしてたはずなのに、照れる以前に緊張もしなかった。なんでですかねぇと苦笑すると、不意に傘が揺れた。
急に止まった佐助さんにどうかしたのかと顔をむけると、私の顔をのぞき込む目とかち合った。
あまりの近さに反射的に目を瞑った直後、唇に柔らかい感触が触れる。
「っ!、なっ、また……!」
ふにっと触れるだけのキスをされて、恥ずかしさのあまり身体がわなわなと震えた。対する佐助さんは打って変わって上機嫌になり、満足そうに傘を持ち直して歩き出す。
「〜〜ッ!」
逃げ出したい衝動に駆られるも、傘の中という状況がそれをさせてくれない。寒いはずなのに顔は熱くて 、文句を言おうにも佐助さんが近すぎる。
なんなの、ほんとになんなの、佐助さん戦国の人とか嘘でしょ絶対。イタリア人かなんかでしょ。じゃなきゃ、あんなにひょいひょいキスしない。そうか、イタリア人だから女の人の扱いも上手いんだ。日本語知らないのも肯ける。冷静さを欠いた頭の中で、次から次へと佐助さんのイタリア人説が浮上する。
そうか、イタリア人か、なら仕方ない。いや、仕方ないのか...?
「雨なんて煩わしいだけだと思ってたけど、たまにはいいかもね」
黙ってしまった私をよそにそんなことを言う佐助さんは、実に楽しそうで。沢山言いたかった文句が、急に消えてしまう。なんか私だけ動揺して、怒ってるのが馬鹿馬鹿しく思える。
「イタリア人め...」
「いたりあじんめ?」
悔し紛れに呟いた文句も拙く繰り返されて、もういいです、と大きくため息をついた。