手のひらの熱
30分程だろうか。曲というでも無く、手慰みのようにしばらくの間弾いていた手をとめてふと佐助さんを見ると、ソファに寄り掛かった体勢のまま静かな寝息を立てていた。
……佐助さんの寝顔、初めて見た。
ソファの座面に腕を置いて、それを枕代わりに寝入っている。床には一応ラグが敷いてあるけど、痛くないのかな。いつも朝は私より先に起きていて、夜寝る頃にはそれぞれの部屋に戻るせいで今まで一切見ることの無かった佐助さんの寝顔。力の抜けた表情は少し幼く見えて、普段不敵な笑みを浮かべてるせいか、ギャップでなんかすごい可愛い。
音を立てないようにギターを床に下ろして、じぃっとその顔をのぞき込む。
スッと通った鼻筋に、薄い唇。けぶるように長い睫毛が、頬に薄らと影を落としていた。橙の髪が額にかかっているせいで、顔が全部見えないのがもどかしい。
「ほんと綺麗な顔してるよなぁ……」
無意識のうちに声に出てていた。はっ、として恐る恐る伺うも佐助さんが起きた様子はない。至近距離で見れば見るほど、男の人にしておくには勿体無いと思ってしまう。なんだか悪い事をしてる気分になってきた。小さな罪悪感を覚えながらも、触れてみたくて。突き動かされるように頬にそうっと手を伸ばした、
瞬間。
「……あんまり無防備に近付いてこられると、俺様も困っちゃうんだけど?」
「……ッ!?」
パチッと目を開いた佐助さんに、一瞬心臓が止まった。
驚きのあまりフリーズした私の手は、佐助さんの頬に触れる寸前で止まったまま。その手にするりと佐助さんの指が絡んで、我に返る。
「さ、最初から、寝たふりしてたんですか!?」
「いや?一瞬寝落ちてたのはホント。曲が止んで起きたよ」
それほぼ最初からじゃないか!自分の行動を振り返った途端に恥ずかしさで顔が熱くなった。ガン見してたのも、あの独り言も、全部バレてるってことだよね?うわぁあ、なんてこった。
羞恥に悶える私の手を頬に引き寄せて、佐助さんが妖しく微笑む。唇が手のひらを撫でていく感触に、ぞくりと背筋が震えた。
「あのまま起きなかったら、何してたの?」
佐助さんが喋る度に吐息と唇の動きがダイレクトに伝わって、擽ったいような恥ずかしいような感覚に肌が粟立つ。妖しい。雰囲気が妖しいよ...!
「っ、や、別になにも…っ…」
「嘘つき」
楽しそうにそう言って、ちゅうと、手のひらを吸われる。キスされているのは手のひらなのに、唇にされた前回よりも心臓がうるさい。
「...ッ、…ごめんなさい…謝りますから…っ…手...」
恥ずかしくて、どうしていいかわからなくて、もはや半泣きだ。必死に謝って、離してくださいと懇願すると最後にもう一度キスを落として、やっと唇が離れた。
「そんな反応されると、余計に虐めたくなるんだけど」
苦笑して頭をなでる佐助さんに大げさに肩がびくつく。こういう雰囲気に全く経験が無いわけではないけど。どうしてか、佐助さんを前にすると余裕が吹っ飛んで、どうしていいかわからなくなる。佐助さんがどういうつもりかわからない以上、間に受けて恥ずかしがるだけ無駄なのに。
それに意地悪はするけど、本当に嫌なことは絶対にしてこない辺りに、佐助さんの優しさが垣間見えて、余計に混乱させるのだ。
「佐助さんって...ずるい」
掴みどころが無くて、余裕で、優しくて。何でそんなにかっこいいんですか、と恨みがましい視線を向けると、狡いのはアキちゃんの方だよ、とため息をつかれた。