働かざるもの





佐助さんがついにバイトを始めた。日雇いの派遣だ。

別にお金が厳しくなったわけでもないのだけど、こっちの世界に慣れてきて、余裕が出てきたらしい。確かに買い物とか頼む以外は、専ら家で家事をしてもらってるし、外に出たくもなるだろう。


「アキちゃんにばっかりお世話になってるからね」


別に気にしなくていいのに。それにしても馴染む速さもさることながら、異世界でバイトしようとは。突然大学に来た時もそうだったけど、佐助さんのアクティブさには毎度感心する。


「ま、佐助さんがいいなら、いいんですけど」


履歴書とかどうしようと思ったけど、最近のバイトは色々ゆるくなったらしい。流石にいきなりひとりは不安だったので、私も同じ派遣会社に登録して一緒に行ってみることにする。住所や、連絡先などを貸して体裁を整えると、佐助さんの初バイトの日取りはすぐに決まった。



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土曜の午前8時。しばしばする目を擦りながら、都内某所に来ていた。だらけきった大学生にとっては、普通の早起きでも少々辛いものがある。朝が弱いせいで、授業も午後に組むくらいだ。おまけに昨日は授業からのいつもの居酒屋バイトだった。


「眠い?」


「ちょっと」


昨日遅かったもんね、と穏やかに笑う佐助さんに眠そうな素振りは一切ない。私が帰るまで起きて待っていてくれるせいで、佐助さんだって睡眠時間は短いはずだ。それなのに今朝も、私が起きた時には朝食が出来上がっていた。


「……佐助さんちゃんと寝てます?」


「こっちに来てからは結構寝てるよ。けど任務の時は四、五日まとも寝れない時もあるからね」


……忍者凄い。
何でもないようにいうけど、忍者の任務って危ないんじゃないの。神経すり減らすようなことしてる上でまともに寝ないなんて考えられない。社畜にも程がある。
私絶対向こうの世界でやっていけないわ……行く予定もないけど。


あくびを噛み殺していると、招集がかかった。今日の現場はいわゆるコンサートスタッフというやつで。主な仕事は10時、14時、18時から行われる舞台の会場案内やチケット切り、物販等だ。一日で12000円。そこそこの報酬かな。

それぞれ担当や休憩を言い渡されて、簡単な説明を受ける。
私は物販、佐助さんは場内の案内スタッフのようだ。会場の見取り図を一目で覚えたらしい佐助さんは、暇そうに公演舞台のチラシを眺めている。私も負けじと物販の内容資料を頭に叩き込んだ。
資料には、私と同い年くらいの爽やかなイケメン達が載っている。世の中こんなにイケメンがいるのね、目の保養。彼らの生写真なんかも売られるようだし、客層は女性が多いんだろう。


「会場入ってすぐ右の所が物販なので。何かあったら言ってくださいね」


「了解」


配られたスタッフTシャツに着替えて、それぞれの配置に散った。

佐助さんと分かれて物販ブースにつく。品出しをしながら番号と商品を照らし合わせていると、同じブースの女の子達に声を掛けられた。

「ねぇねぇ、さっき一緒にいたイケメン君、友達?」


「あぁ、はい、そんなとこです」


「めっちゃカッコイイんだけど、モデルとかやってるわけ?彼女いんのかな?」


「モデルはしてないです、彼女は...」


そう言えば聞いたことなかった。
モテるって言ってたし、なんか手馴れてるし。向こうの世界にはいたりするのかな。いや、でも彼女いるなら、たとえふざけてでもキスしてこないよな...。


「…たぶん、いないんじゃないですかね」


「まじで!連絡先聞いちゃおうかなぁー」


普段が完全主夫過ぎて忘れかけるけど佐助さんも世にいうイケメンの部類だ。それも超一級品。
彼女たちの目が心なしかハンターの目になってるのもうなずける。まあでも、連絡先聞いたとしても、佐助さんが教える番号って多分家電か、私の携帯の番号なんだけどなぁ。きゃっきゃっと盛りあがる女子達に、なんとも言えない気持ちになった。


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