もやもや





開場した途端、物販にはあっという間に行列が出来た。


「パンフと、〇〇くんと、△△くんのと……」


「4番と6番、7番でお間違いないですか?4点で3200円になります」


頼むから番号で言って……!
生写真の名前と番号を必死で照らし合わせながら笑顔を貼り付けてお客さんを裁く。挙句にあだ名で注文とか、勘弁してください。申し訳ないけど、そこまで覚えてられないのだ。公演がはじまるまでの1時間はまるで戦場だった。


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いざ公演が始まってしまえば、物販売り場はさっきまでの盛況ぶりが嘘のように閑散として。荒れた売り場を整理して、売れた在庫を足していく。佐助さんはちゃんとやれてるだろうか。


「ちょっとお手洗い行ってきていいですか」


「うん、いってらっしゃい」


お手洗いと言いつつ遠回りをして劇場の周りをぐるりと回る。ふと談笑する声が聞こえてきて、ひょいとそちらを覗いてみると、佐助さんが同じスタッフの女の子達と喋っているところだった。


なんだ、全然上手くやれてるじゃん。こうしてみると、ほんとに現代の人と変わらない。遠目で眺めていると気配に気づいたのか、不意に佐助さんがこちらを向いて、ぱちりと目が合ってしまった。途端に佐助さんが寄ってくる。


「アキちゃん!ねぇ、聞いてよ。さっきお客さんに握手してくださいって言われちゃった。俺様役者じゃないのにさ」


「そうなんだよー、佐助くん写真もお願いされててー」


「舞台観に来てスタッフと写真とかマジ謎だよねぇ、まぁわからなくもないけど」


「めっちゃウケたー。撮ってあげればよかったのに、なんで断ったのー?」


きゃっきゃっと楽しそうに笑う女子に囲まれている佐助さんを見ていたら、なぜだかむっとして。


「...良かったじゃないですか、それだけ佐助さんがかっこいいってことですよ」


「アキちゃん?」


「私、もう戻らないとなんで行きますね。後半も頑張ってください」


にこやかに会話を切り上げ、不思議そうな顔をした佐助さんを置いて踵を返した。やばい、何かなんとなく、面白くない。なんでだ?上手くやれてるのはいい事だ。ぼろを出して大事になったら迷惑を被るのは私なんだし。そう頭では理解しているのに、物販ブースに戻りながら、胸の中ではもやもやと形容し難い感情が渦巻く。


公演が終わり、お客さんが一斉に劇場から出てくると、物販周辺は再び人でごった返した。余計なことを考える余裕は無くなり、目の前のお客さんに集中する。

午後は午後で公演中に別の仕事を頼まれ、そのまま夜公演が終わるまで劇場裏を駆け回り、ほぼ休み無しで働かされた。


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「疲れた……」

ほんっとに疲れた。12時間ほぼ立ちっぱってどういうことよ...。スタッフルームに戻った途端、着替えるのも面倒になって机に突っ伏した。
毎公演、上演後の方がグッズの売上がよかったってことは、舞台が盛況だったってことだろう。その分疲れたけど、お客さんが凄い楽しそうに舞台の感想を言いながら帰っていくのを見るのは結構嬉しかった。

佐助さんのバイトの様子見できたつもりが、ふつうにやり切ってしまった。バイト中に佐助さんあったのは、午前の1回きり。休憩も被らなかったから、あれからどうしたかも分からない。


「アキちゃんお疲れ様」


不意にぽんと肩を叩かれる感触がして、顔をあげると佐助さんがいた。満面の笑みのその手には、今どき珍しく、手渡しだったらしい日当が。


「お疲れ様です、じゃあ帰りましょうか」


嬉しそうな佐助さんを見ていたらこっちまで嬉しくなる。私は疲れた体を起こして自分の分の日当をもらいに行き、そのまま帰り支度を始めた。

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