ゆれる
簡易なパーテーションで区切られた更衣室で着替えていると、更衣室の外から佐助さんを呼ぶ声がする。
「佐助くーん、これからみんなで飲みいくんだけど、行かない?」
「あはー、有難いけど、俺様アキちゃんと帰るから」
「えー、行こうよー」
「行ってきていいですよ?」
ひょいと衝立から顔を出してそう言えば、びっくりしたように佐助さんが振り返った。
「え、アキちゃんは帰るんでしょ?」
「私は眠いので先に帰りますけど、佐助さん1人で帰ってこれるでしょう?なら別に行ってきていいですよ」
佐助さんの物覚えの良さはこれまでで実証済みだ。電車は今日が初めてだったけど、来れたんだから帰りも大丈夫だろう。お酒も普通に飲んでれば強いことも知っている。お給料も手に入ったことだし、ちょっと飲み行くくらい構わないですよ、と促すと、なんとも言えない顔をされた。
「…いや、いい。一緒に帰る」
「?、そーですか」
何かお金貯めたい理由でもあるのかな。まぁ、なんでもいいけど。それならと、ちゃっちゃと着替えを済ませた私は、関係各所に適当に挨拶をして。微妙な顔のままの佐助さんを連れて、スタッフルームを出た。
駅に向かう道すがら、佐助さんは妙な顔をしたまま何も話さない。こないだの雨の時みたいだけど、怒ってるようでもないし。
「やっぱり、行きたかったんじゃないですか?飲み」
気にしてるんだとすれば先程の飲みのことだろうと、聞いてみるが。
「いや、それはどうでもいい」
あっさりと否定されてしまい、余計に疑問が深まった。じゃあどうして様子が変なの?
不意に、横を歩いていた佐助さんがこちらをむいて。
「アキちゃんはさ、俺様のことどう思ってるの?」
真剣な表情で見つめられて返答に困った。急にどうした?
「どうって、え?」
「どうでもいい?」
「へ?どうでもよくないですよ!え、っと、……いつもお世話になってて、感謝してます。あとは、佐助さんの帰る手助けが全然できてないことが、申し訳ないです……」
「それだけ?」
それだけ?って言われても……!急な質問な上に、どうでもいい?とか、わけがわからない。これ以上何を言って欲しいんだ。好きとか嫌いとかの話?好きだよ?ふつうに。そもそも嫌いだったらバイトの斡旋なんてしてないからね。でも、こんなことが聞きたいわけじゃないよね?意図が読めなくて、瞳を見つめ返す。
「……なんて言って欲しいんですか...?」
「俺様はアキちゃんが……っ……ごめん、何でもない。今の忘れて」
困り果てて質問に質問で返した私。それに対して佐助さんは何かを言いかけて、口を噤んだ。本当にどうしちゃったの。
帰ろっか、とぎこちなく歩き出した佐助さんのあとを追う。今日は消化不良なことばかりだ。自分の事もだし、佐助さんのことも。考えなきゃいけない気もするし、あんまり答えを出したくない気もする。
疲れた上に考え事が重なったせいだろうか。
運良く座れた帰りの電車の中で、私はいつの間にか寝入ってしまったのだった。