鎮めて沈めて
佐助さんへの気持ちを自覚した夜が明けて。
何事も無かったかのように大学に行く準備をする私に、佐助さんは心配そうな目線を投げたまま、けれど何も聞いてくることはなかった。
会話もどこか上の空で、ご飯を食べて大学へ向かう。授業中もずっと、頭の中を占めるのはこれからのこと。
あと二週間。早く伝えるべきだろう。ずっと不安の中にいるであろう佐助さんを安心させてあげたい。
だけど。
口にしてしまったら、本当に居なくなってしまう。稲荷神は私の力があれば、と言った。
( なら、私が手伝わなければ、佐助さんはずっとここにいてくれる……?)
唐突に浮かんだ考えに、心底自分が嫌いになった。なんて勝手なことを。佐助さんはこの世界にいるべき人じゃない。元の世界には仕える人がいて、佐助さんの大事なものはすべて向こうにあるのに。私の都合で、私のわがままで、佐助さんを繋ぎ留めることが許されるはずが無い。
(この気持ちは伝えられない……)
蓋をして、心の奥底に沈めなければ。
いなくなってしまうのなら、伝えるだけ無駄だ。佐助さんだって迷惑だろう。この胸の痛みも、寂しさも、上手く誤魔化して隠してしまえば、きっと無かったことになる。
苛む思いを振り切るように目を瞑った。
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授業を終えたあと、そのままバイトに来ていた。前にも思ったけど、私は仕事に没頭することで、考えたくないことから逃げる癖があるみたいだ。
いつもより愛想がいいのではないかというくらい笑顔を振り撒いて。お客さんの間を縫って注文に会計にと奔走する。
ピークタイムが落ちついて一息ついた頃。突然、ちょっと来いと、丸井くんに腕を引かれた。連れてかれたのは更衣室。
何もミスした覚えは無いし、店長ならまだしも丸井くんに呼び出されるなんて初めてだった。
「お前、どうした?何かあった?」
開口一番に聞かれて、息を飲んだ。2人入るのがやっとの狭い更衣室で、真剣な表情をした丸井くんが真っ直ぐこちらを見据えていて。目がそらせない。
「...なんで。何も無いよ」
「嘘つけ。じゃあなんでそんなに思い詰めた顔してんだよ」
こないだよりひどいぞ、と言われて驚く。顔に出した覚えはない。現に店長には、いつもよりご機嫌だなって言われたくらいだ。お客さんにだって、おねーさん元気だねって笑ってもらったのに。
「赤也も気にしてる」
「切原くんが...」
なんで、どうしてバレちゃうんだ。
「……ごめん。ちゃんと切り替える」
仕事中なのに、自分のことでこれ以上迷惑はかけられない。自己管理はできていたはずなのに。ピークタイムが落ち着いたとはいえ、いつまでも私と丸井くんが抜けてたら店だって回らない。
そう思って謝ると、なぜだか丸井くんは、そういうことじゃねぇんだよ、と呆れたようにため息をついた。
「……アキ、お前確か明日はシフト休みだよな。なんかあんのか?」
「え、特に何も無いけど」
「じゃあ、空けとけ。飲みに行くぞ」
「は、え?、ちょっと」
突然の飲みの誘いに戸惑う私を置いて、丸井くんはキッチンへと戻って行く。何なんだ。呆然とその背を見送る...って、まだ仕事中だった。ハッと我に返り、納得出来ないまま私もあとを追って慌ててフロアに戻った。