現状把握
一軒家の自宅にたどり着くと、開口一番にアンタはどこぞのお姫様か?と聞かれた。勿論そんなはずはない。
ごくごく一般的な一軒家なので、今の時代は珍しくないですとだけ言っておいた。
家に上がるなり、電気にビビり、ソファに驚き、ティフ○ールに感動して...と、らちがあかなかったので割愛するが、深夜1時を過ぎてるってのに元気なおにーさんを宥めて座らせるのは、骨が折れた。
「さて、まずは今更ですけど自己紹介からはじめませんか」
居心地悪そうにカーペットに正座したおにーさんの前に緑茶を置いて、切り出してみる。
「俺様の名前は猿飛佐助。忍として真田幸村に仕えてる。現状わかってることは、この時代が俺様のいた場所じゃないってことくらい」
「真田幸村...聞いたことあります、名前だけですけど。忍って、忍者ですよね。勇気100%なんですか。その格好で忍ぶとか、すごいですね」
「あはー、俺様もさすがに喧嘩売られてるのはわかるよ?」
「あはは。そんな滅相もない」
がっかりしてめそめそしてどうしたんだい?
って感じだったよなさっきまで。と思いながらおにーさんもとい、猿飛さんの鋭利な視線を笑って流す。
「私は、神代 アキと言います。歳は21、大学3年生です。ここには現在一人で暮らしています」
「二十一で独り身なんだ」
「ちょっと今そこに触れられると私の精神が崩壊するのでやめてください」
「なんかごめんね」
私の顔がマジだったのか、猿飛さんは即座に謝ってきた。謝らないで欲しい。みじめだ。
「ほかに家族は?」
「両親は海を渡った先で仕事してるので、滅多に帰ってこないです。それと兄が1人いますが結婚して家を出ています」
「ふぅん」
猿飛さんはこちらをじぃっと見つめたまま黙り込む。何を考えているのかさっぱりだ。なので、構わず話を進める。
「猿飛さんは、なんでこの時代に来ちゃったんですか」
「城の周りを警備してたら、変な気配を感じて、追ってるうちに森に入って、気づいたらここにいた」
どこぞの昔話かよ、思ったが、この人は自称昔の人だったと思い直す。
「変な気配、ってこっちに来てからもしますか」
「いや、全く」
「そうですか 」
「.........」
「.........」
なんて嫌な沈黙だろう。
原因不明、解決方法も不明。唯一の手掛かりは気配、という不明瞭なもので。猿飛さんの立場は絶望的である。
正直関わりたくないのが本音だ、こんな面倒事しかない人。でも、今彼の存在を把握しているのは私だけで。彼の手助けが出来るのもきっと私だけ。
なんだか上手く懐柔されている気もするけど...
ちらりと、猿飛さんの表情を伺う。うつむいて黙っているのは、今後のことを考えているからなのか。
もういいや。どうとでもなれってさっきも1度腹を括ったじゃないか。毒を食らわば皿まで、だ。
「取りあえず、今日はもう遅いので考えるのは明日にしませんか。猿飛さんも色々大変だったろうし、私も疲れてます」
わざと明日という提案をした私に、猿飛さんは落としていた目線を上げた。
「え、明日って...」
「ひとまず寝ましょう。私ほんとに眠いんで。もしかしたら寝たら、朝には元の場所に戻ってるかもですよ」
色々言いたげな猿飛さんを制して、隣の部屋を開ける。
「この和室、好きに使ってください。布団は押し入れに入ってます。では、おやすみなさい」
それだけ言うと、お茶と一緒に猿飛さんを和室に押し込めた。
引戸の向こうで何やら言ってる声が聞こえるが全部無視。眠いんだこっちは。
二階の自分の部屋に上がって適当に着替えを引っつかみ、風呂へ。簡単にシャワーを浴びて、ベッドに潜り込んだ。
色々なことが起こりすぎて頭がついていかない。けど、その分嫌なことも紛れてくれてることに、少しだけ安堵した。今は、何も考えたくない。襲ってきた睡魔に従い、私はさっさと意識を手放した。