願わくば






「……ん、」


温かさと緩い拘束を感じながら目を開けると、佐助さんの胸元が目に飛び込んできて一瞬で顔が熱くなった。
かろうじて布団は掛かっているものの、その下は言わずもがな、私も佐助さんも裸だ。離れようにもしっかりと腰にまわった腕のせいで身動きが取れない。



ここに至るまでの色々が思い出されて、耐えきれず手で顔を覆った。自分があんなに乱れるとは思ってもみなかった。とんでもなくはしたないことを口走った覚えもある... こんな事は初めてだ。今までしてたことがお遊戯だったのかと思うくらい、佐助さんが上手過ぎた...。思い出すだけで甘い痺れが背筋を這って、いたたまれなくなる。


「わ、...!」


不意に、腰にまわった腕に引き寄せられてこつんと胸板におでこがぶつかった。
バクバクと忙しない心臓を落ち着けながら、また意地悪かと見上げる。不敵な笑みを予想していたのに、実際には心底穏やかな顔で眠っていた佐助さんに毒気を抜かれた。本当に寝てる...?


「佐助さん...」


呼び掛けてみるも、反応はない。今のは無意識?前にもこんな事があったけど、なんとなく今回は本当に寝てるような気がした。腕を伸ばしてその頬に触れる。そのままちょっと強引に伸びをして佐助さんの唇にキスをした。


「ありがとうございます、佐助さん。どうか、向こうに戻っても生きて、幸せになってくださいね。……それから……


できれば私のこと、忘れないでください」


そう囁いて。悪戯が成功したような気持ちで、二度寝の体勢に入る。胸元に頬を寄せて、確かな心音に安心しながら、再び目を閉じた。


#



二度寝から覚めると、今度は佐助さんも起きていた。
時計は4時を指していて。夕飯の仕度をしなきゃと起きあがった佐助さんの後に続く。シャワーを浴びて、2人で買出しに向かった。自然と繋がれた手が、そわそわと落ち着かない。こちらを見る佐助さんの目は、今までに輪をかけて優しかった。



一緒に作った夕飯を前に、今更お腹が減っていたことに気づく。そういえばお昼を食べ損ねていた。
和食も洋食もお手の物になってきた佐助さんに、もはや私の腕は適わない。


「あと、12日。何かしたいことありますか?」


夕飯を囲みながら、そう聞いてみる。12日という響きが、また少し寂しさを煽った。まだ先のようでいて、きっとあっという間に過ぎてしまうんだろう。佐助さんは、うーんと暫く考えたあと思いついたように、あ、とつぶやいた。


「したいこと……アキちゃんとずっと交合っていたい」


思わず味噌汁を噴いた。

そうだよね、こういう人だよね。聞くんじゃなかった。ゴホゴホと噎せる私に、大丈夫?と首を傾げる佐助さん。大丈夫はこっちの台詞だ。頭大丈夫ですか。馬鹿なんですか。


「そういうこと聞いてるんじゃなくて」


「だめ?」


「っ、ダメじゃ...ないです、けど……」


言いながら、顔が熱くなる。ダメじゃないけど違うんだ。そういう事じゃないんだよ。もう。


「あはー、冗談だよ。……まぁ本気でも全然構わないけど」


へらりと笑う顔からは、冗談が冗談に聞こえない。あんだけやっても疲れをみせない無尽蔵な体力なら、本当にやりかねない気がしてゾッとした。私がついていけないってば。


「とにかく!もっと別のことでです」


「んー、アキちゃんの傍に居たいのは本当だよ?逆にアキちゃんは、何かしたいことある?」


聞き返されてしまい、考え込む。1週間ちょっとでできること...。


「...大学もバイトもあるので、明日すぐにというわけには行かないんですけど、旅行にでも行きませんか?」


「旅行?」


「はい、なんか適当に、温泉とかどうでしょう。思い出作りも兼ねて」


思い出作りと自分で言っておきながら、またちょっと寂しくなった。
話を聞くと佐助さんは温泉に入ったことがないらしい。曰く、親方様が入るのについてったことはあるんだけどね、とのことだ。
ふーん、昔からあるとは思ってたけど、そういう感じなのか。


#



食事を終えて、ソファで寛ぎながらスマホをいじる。
「温泉 有名」なんて、我ながらなんて適当な検索だと思うけど。でもヒットするんだから文明の利器様様だ。


「……あ、甲斐」


それは半ば思いつきだった。出会った時に佐助さんが言ってた場所。
正確には上田城にいってみようかなってことなんだけど。ていうか調べてみたら当時の甲斐って相当広くない?上田城って長野だ。信州上田ってよく聞くのはこのことか。まぁ、勢力とかいろいろあるし今の県と違うのは当然だろう。
うんうん、長野なら車で行けるなぁ。



「何見てるの?」



先程まで食器洗いをしてくれていた佐助さんは、濡れた手を拭きながら私の手元をのぞき込む。あ、久しぶりだこのお母さんみたいな感じ。



「どうせだったらこっちの甲斐に言ってみようかと思いまして」


「上田城…か」



画面の文字を追って佐助さんが呟く。帰れると知ったからか、その顔に浮かぶのは純粋な懐かしさのように思えた。









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