虎目石





「あ、この色も綺麗」


「これ全部向こうに持ち帰って売ったら、俺様左団扇で生活できると思う...」


ふらりと立ち寄ったパワーストーンの店で対照的なことを言いながら店内を物色する。こういうのをほんとに信じてるかと聞かれると微妙だけど。普通に見るのは好きだ。色とりどりの石を見ながら、気に入った色を探す。


「アキちゃんには、これがいいと思うな」


ひょいと横から指さされた先にあったのは、アメジスト。紫水晶だ。


「綺麗ですね!佐助さんはー、そうですね、これとかどうですか。えーっと、翡翠?」


「翡翠!?そんなものまであるの?」


翡翠は有名なんだな。柔らかい緑色の石を指さすと、佐助さんが大げさに飛び退いた。面白いなぁ。紫色と緑色の石をそれぞれ見比べる。


「佐助さん、首飾りにして送ったら、貰ってくれます?」


「翡翠を!?」


佐助さんの時代の翡翠はどうやら半端なくお高いものらしい。確かに今でも高価なイメージはあるしね。お母さん気質を前面に押し出して宥めてくる佐助さんに根負けして、翡翠は諦める。かわりにタイガーアイという茶色と橙色のまざった石にした。虎目石だって、なんか面白い名前。


「売らないでくださいね?」


「売るわけないでしょ」


シンプルな細い革紐の先で揺れる虎目石をみて満足気な私に、じゃあこれは俺様から、と佐助さんから渡されたのはさっきまで見ていたアメジストだった。


「え、いつの間に...?」


「内緒」


分身か?分身なのか?
意味深にウインクした佐助さんは、手ずから私の首にネックレスを付けてくれる。胸元でキラキラと紫色が光って、幸せな気分になる。どうしようすごいうれしい。大切にしよう。


気になる店をめぐって、食べ歩きをして、本当に普通のデートみたいに街を散策する。この先にあるのは、絶対に避けられない別れだと知っていても見ない振りをする。今だけは、この幸せに浸っていたい。
きっと佐助さんもそう思っているのか、他愛ないやりとりが続いた。


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宿に戻ってすぐ、夕飯の前にと私は大浴場の露天風呂に向かった。もう最っ高でした。平日のせいか洗い場自体ひとが少なくて、露天風呂に至ってはほぼ貸切状態だった。お肌はつるつるもちもち。体もぽかぽか。部屋に置いてた浴衣を拝借して、気分は完全にリラックスモードだ。夕飯楽しみだなぁ。




「あー、いいお湯でしたー」


「おかえり...、!、アキちゃんが和装なの新鮮」


こちらを向いた佐助さんは一瞬目を見張って、相好を崩した。畳に座って荷物の整理をしていた私にすすすと寄ってくる。


「どうしたんですか、っ、うわっ!」


やけに上機嫌な態度に首をかしげて問い掛けた次の瞬間には、肩をトンと押されて、畳に仰向けに倒されていた。


「浴衣も似合うね。けど風呂上りで薄衣1枚ってのは、ちょっと無防備過ぎじゃない?もしかして誘ってる?」


にっこりと嬉しそうに紡がれた言葉の意味を噛み砕く。待って、待って。なんかよからぬ雰囲気じゃないかこれ...?風呂上りに浴衣がそんなにダメなのか...???誘ってるって...?いやいや。


「違いますから!」


「えー、俺様アキちゃんの据え膳なら喜んで頂くのに」


「馬鹿言わないでくださいよ」


なにが据え膳だ。咄嗟に身体を隠すように両腕を胸の前で交差した。なんだこれ超絶恥ずかしい。


「そういう反応されると、余計に虐めたくなるね」


「っ!」


意地悪な笑みを浮かべた佐助さんは私の手首をひょいと掴んだかと思うと、いとも簡単に交差した腕を開いてそのまま畳に縫い付けた。

誘ってるとか、据え膳だとか、薄衣1枚だとか。言われると意識してしまって、なんだか途端に恥ずかしい。1枚じゃないし!ちゃんと下着付けてるし!浴衣は今や外にだって着てく、普通の服となんら変わらない扱いだ。
それなのに。
力ずくで腕を押さえられて、佐助さんの眼前に浴衣姿を晒していることがたまらなく恥ずかしかった。真っ赤になってるであろう顔で必死に離してくださいと懇願するも、むしろ私の反応が面白いようで、佐助さんの視線は、つぅと浴衣の上をなぞる。


「性悪!変態!ばかー!佐助さん嫌いになりますよ!!」


あまりの羞恥に目の端に涙が浮かんで、何振り構わず足をばたつかせて身をよじる 。私が半泣きになったからか、佐助さんはパッと手を話すとごめんごめんと笑った。

最低、変態……とぶつぶつ呟く私を引っ張り起こして、乱れた襟を直してくれる。心臓は未だドキドキとうるさいし、顔が熱いのも引かない。
普段お母さんのように世話してくれる分忘れがちだが、時々こうして佐助さんが男の人なのだと実感する。突然色気を漂わせて、艶っぽい声で距離を詰められると、こちらとしては意識が全部持ってかれる上に、どうしていいか分からなくなる。
向こうはいちいちテンパる私の反応が面白くてやってるだろうけど。やられるこっちは、たまったもんじゃない。


「ごめんてば。あまりにも無防備だったからつい。ほら、ちゃんと羽織も着て?」


「佐助さんのばか...変態...」


「機嫌直して、夕餉楽しみにしてたんでしょ」


誰のせいだ。取って食いはしないって言ったくせに、日も落ちてないそばから危うい。つんと拗ねて、部屋を出る仕度をする。夕飯は部屋とは別の食事処でとるのだ。向かう途中一生懸命宥めてくる佐助さんにため息がこぼれた。



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