けじめ




「美味しい...!」


地元の食材をふんだんに使った懐石料理に、私の機嫌は一気に持ち直した。お宿のご飯って最近はビュッフェ形式とか多いけど。やっぱりこういうのが旅行に来たーって感じで好きだ。


「機嫌直ってよかった、これ俺様のも食べる?」


心底ほっとしたような顔で私が絶賛した小鉢を勧めてくる佐助さんも先程までは、ほんとにこれ俺様が食べていいの...?と若干引いてた。別に超高級食材が使われてるとかってわけじゃないし、宿代自体も普通なのだが、たぶんこの料理の形式が慣れないのだろう。


「今、日本酒飲みたかったですね」


「確かにね。まぁそれは部屋でのお楽しみってことで」


実は先程、散策がてら寄った地元の酒屋さんで、日本酒を調達していたのだ。お風呂もついてることだしお湯に浸かりながら冷酒なんか飲めたら最高だねという話から、もはや晩酌が日課になりつつある私達は、迷わず地酒を購入した。
この料理にも絶対にあうとはおもうけど、流石にここに持ってくるわけにいかない。ああ、でも絶対一緒に飲んだら美味しいのに...。
サクサクに上がった天ぷらを頬張って、また顔が緩んだ。ほんとに美味しい...幸せ...。


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至福のご飯を終えて部屋に戻ると、夕食の間に仲居さんが入ったのだろう。2組の布団がぴったり隣合わせで敷かれていた。まじか。

気にした様子もなくお風呂入ってくるーと、部屋の露天風呂に向かった佐助さんを見送って。
一人残った部屋でテレビをつけるも全然内容が入ってこない。なんだろうどうしよう。先に日本酒飲んでようかな。一緒に開けた方がいいのかな。いやでも酔ってしまわないと、この状況がいたたまれない。さっきのことがあったせいか余計に意識してしまう。取って食われるのかな...?


「...よし、飲もう」


ぐるぐると落ち着かない思考を繰り返したのち、意を決して備え付けの冷蔵庫に手を伸ばした。直後。


ーー♪ーー♪


「?」


聴きなれた着信音に誰だろうとスマホをのぞき込んで、息を呑んだ。
机の上で震える液晶画面には、”春人”の文字。
なんで、よりによってこのタイミングなんだ。どうしていまさら。
大学での一件以降、陽菜も春人もあからさまに私を避けるようになって。私はそれまでと付き合う友人も変わった。授業も被るけれど、ここ最近は一切関わることもなかったのに。

取れないでいるあいだも、しつこく着信音は鳴り続ける。出る義理なんてない。でも...


「...もしもし」


” ...アキ?、良かった出てくれて ”


若干声が震えてしまったけれど、向こうには気付かれなかったようだ。伺うような声音で名前をよばれて、そんなに前のことでもないのに、懐かしさを覚えた。


「何の用なの」


” ごめん、どうしても話したくて。俺はアキに酷いことした。アキのこと裏切って、傷つけた。それを謝りたかったんだ ”


「そう」


正直何も響いてこないのが本音だ。端的に返事する私の様子が伝わってるんだろう。春人の声に焦りが見える。


” ほんとにごめん ”


「もういいよ」


” 俺ほんとに反省したんだ。それに後悔もしてる。アキと居られたことがどんだけ幸せだったかとか、ちゃんと考えたんだ。それで、できればもう1度... ”


話の雲行きが怪しくなる。何を言ってるの。謝ってたんじゃなかったの?


「春人...、私が電話に出たのは、春人とちゃんと別れるためだよ」


” ごめん、アキ。謝るから。俺達今までずっと上手くやってこれただろ? ”


「もう無理だよ...自分がどれだけ勝手なこと言ってるかわかってる?」


” それはわかってる。でも... ”


「これ以上いうなら、私は春人と付き合ったことを後悔する。全部嫌な思い出にさせないで。もうやめて」


” ッ...ごめん ”


「春人、こんな終わり方だったけど。ちゃんと好きだったよ。今までありがとうね」


” アキ... ”


何か言いたげな空気をわざと無視して、最後にさよならと短く言って通話を切った。一方的すぎたかな。でも、どうしたって泣きそうで、こんな対応しかできなかったのだ。不可抗力というやつだ。
全部が全部、いまさらで調子のいい春人の言い草が頭にきた。あの様子だと、陽菜と何かあったに違いない。
苦い気持ちが胸を満たして、唇を噛む。


「いいんだ、もう。終わったことだし」


自分に言い聞かせるようにつぶやいて、気を取り直して冷蔵庫に手をかけた。


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