たちがわるい
結論から言うと、風呂上りの猿飛さんは、色気五割増だった。
濡れた髪に、上気した頬、無造作に掻き上げられて見える額...なんとも煽情的な姿である。
男の人なのに、勝てる気がしない。
「エロい...」
ぼうっと見つめて思わずそう呟くと、一緒ぽかんとした猿飛さんが、嫌な笑みを浮かべて寄ってきた。
「ねぇ、アキちゃんそれどういう意味?」
「...何でもないですよ、近いんですけど」
いつの間にか壁際に囲うように追い詰められている。
え、何のスイッチこれ。なんか猿飛さんの目がこわいんだけど。
「もしかして、俺様に見惚れた?」
思わず俯いた耳元に顔を寄せて囁かれる低音ボイス。しかも図星なだけに余計タチが悪い。なにこれ反則でしょ。恥ずかしさのあまり、一瞬で顔が熱くなる。猿飛さんてこんな人だったっけ。
「...っ、馬鹿な事言ってないで髪乾かして来てください。ご飯にしますよ」
なるべく平静を装って猿飛さんから距離を取る。
「照れてるの?可愛いね、アキちゃん」
「ご飯いらないんですねわかりました」
「ごめんごめん、冗談だよ」
夕飯を持ち出すと、慌てて謝ってきた。でも多分絶対、私の動揺は見透かされてた...笑ってるし...悔しい。
おかげでせっかくの夕飯もあんまり味わえなかったし、おまけに猿飛さんとまともに目が合わせられなかった。
味の分からなかった夕飯を終えて、風呂に入る。
湯船に浸かると、知らず知らずに張っていた気が解けていくようだ。
ほう、と息をついて、現状を振り返る。
昨日出会った人にしては随時濃い時間を過ごしている。
バイトの次の日は普段だったら昼前まで寝ている。それが朝からフル稼働で猿飛さんと一緒にいるのだ。
不思議な気分だ。
昨日の出会いを思い出しているうちに、思い出したくない出来事まで引っ張り出された。
「授業...行きたくないなぁ」
幸い、明日は日曜だし、大学は木金なので暫く彼らの顔は見ないで済むのだけど。
学部も一緒なら取ってる授業も一緒なのだ。
次の授業からどんな顔して会えばいいんだ...というより、会いたくない。
思考が、暗く沈んでいく。
「...、だめだ。今はそれよりも...」
今はそれよりも、猿飛さんのことを考えなければ。言い聞かせるように無理矢理思考を断ち切って、湯船から上がった。