落ちた先






霧が晴れて目を開けると、一面に真っ青な空が広がっていた。綺麗な青空…ん、空?


「空ぁあ!?」


落ちる、と自覚した次の瞬間にはバッシャーンと派手な水柱を立てて水中に突っ込んでいた。痛い!水面でも衝撃が凄い!

あわててもがいて水面に顔を出す。口がしょっぱいし目が痛い、海だ。来て早々パンツまでずぶ濡れとかつらい。落ちていると実感する間もなかったからそんなに高いところから落ちたわけじゃないのか…?

幸いに足がつく。肩まで浸かりながら横に視線を向けると真っ黒な壁。見上げてはじめて、それが大きな船なのだとわかった。


「おい!大丈夫か嬢ちゃん!」


船の上から大声で呼び掛けられて空を振り仰ぐ。太陽の眩しさに目を細めた。逆光で顔はよく見えないが、綺麗な銀髪がキラキラと輝いている。そして陰影美しく浮かび上がる腹筋...


「どちらさまですか...っ!」


顔を見るよりもそちらが気になってしまって思わず声が上擦った。ナイス筋肉だ、無駄がない。ボディビルとかナンセンスなやつじゃなく、働く筋肉って言えばいいのか、使うところが鍛えられてる感じ?とにかく素敵な腹筋だ。ひと昔前の漫画だったら目がハートになっていたことだろう。なにを隠そう私は筋肉フェチなのだ。
ん?佐助さん?佐助さんの筋肉も大好きですよ!

おおぅ…と声にならない感動に打ち震えていると、銀髪筋肉様がなにか指示を出し、私にはジェスチャーであっちあっちと指を差す。目を向けてみれば、なるほどどうりで浅いわけだ。少し先には砂浜が広がっていた。波をかけ分けて陸を目指しながら思う。これ着地があと数十メートルずれてたら、無傷じゃすまなかったなぁ。


やっとこさ陸に上がる。びしょびしょの服がまとわりついてすごく不快だ。こんなことならもっと薄手のワンピースとか来てくればよかったかな。私の格好はというと、パーカーにスキニーにスニーカー。動きやすさ重視のはずが、水の中では重荷でしかなかった。しかもすっごい寒い。季節がいつなのか分からないけど、とても海で泳ぎ回れる気温じゃないのは確かだ。


「あー、疲れた」


『着替えろアキ、そのままでは風邪をひく』


パーカーのフードからひょっこりと顔を出したいなりが、そう言いながら私の背負ってたリュックをつつく。実はこっちに来る時にいなりが私のリュックに細工をしてくれたのだ。どこぞの青い猫型ロボット顔負けの。なんとこのリュック、4次元です!私の家にあったあれこれを私の意思で自由に取り出すことが出来るのだ。もちろんカバンの取り出し口を超えるサイズは無理だけど、小物とか洗面用具とか服とかには困らないという優れもの。しかも防水防塵らしく、リュックは一切濡れてない。なんということでしょう、この防水機能私の服にもつけてくれたらいいのになぁ。


リュックを下ろして手を突っ込みガサゴソと目当てのものを探す。とりあえずタオルと着替えと、ドライヤー…は後でこっそり使うとしよう。指先に触れたタオル地をそのまま引っ張り出した直後。


「怪我はねぇか?」


「面妖な娘だな、どこからきやがった?」


「アニキがお呼びだ、ついてきな」


すごい漁師っぽい人達に囲まれた。
……いきなりピンチか?


#


あれから問答無用で連行された先は、まさかのお城だった。てっきり船に連れてかれるもんだと思っていたからますますわけがか分からない。
此処で待ってろと、だだっ広い部屋に放置されて、かれこれ二十分程だろうか。頼んだら着替えさせてくれたから、悪い人たちじゃないんだろうけど。右も左も分からないこの世界じゃ安易に人を信頼することも危うい。


まあでも、万事無事にとは言えないけれどひとまずこちらの世界には到着した。今のうちに現状把握しておこう。

下調べした戦国の世のうち、今現在はどういう状況なのだろう。いなりによれば、佐助さんの気配は幸いまだある。上田の地に落ちれれば最高だけどこの綺麗な海と船を見る限り、結構遠くに落ちちゃってたりしてー。沖縄とかだったらどうしよう。ていうか、戦国時代の情勢?とか全然わからないんだけど、真田さんのお膝元以外の土地はざっくり言うと敵の陣地ってことだよね?安心できない…。

さっそく頭を抱える私に対して、いなりは冷静だった。


『アキ、敵であろうと味方であろうと重宝される人材とはなんだと思う?』


「え、敵味方関係なく?」


突然のいなりの質問に、首を傾げる。味方なら頼りになって、敵だったとしても殺せない人材…。私がお殿様だったとしたら、どんな人を手元に置きたいかってことかな…?


「うーん、すっごく頭のいい人?」


『方向性はあってるな』


頭がいいだけじゃなダメなのか。じゃあ力の強いひと?と聞けばある意味では力は強いな、とまたもや微妙な答え。呑気になぞなぞなんてやってる場合じゃないってばー。



『すぐに扮せるもので一定の力を持ち、かつ重宝されるもの。アキ、お前は今から巫女だ。病も妖も両方相手取る巫女だと名乗れ』










- 5 -


prev | next