呪いの簪





肩を並べて寄り添い歩く二人の男女。デートでもしてるのだろうか。相変わらず、無音映画の仕様は健在で。なんか普通に記憶とか辿れるようになっちゃったんだなぁと自分で自分が少し怖い。

そんなことを考えるうちに場面が代わり、恐らくデートの終盤だろう、離れ際におずおずと男性が差し出したのは紛れもなくあの黄色い簪だった。
簪を見た女性は、花の開くような満面の笑みをたたえて。見るからに幸せそうな二人に呪いという要素がいまいちピンと来ない。

またもや引っ張られるように場面が変わって、驚いた。男性はどうやら長曾我部様の部下であったらしい。記憶に唐突に現れた長曾我部様に面食らっだけど、そういえば長曾我部様にまつわる呪いらしいから、出てこないわけないよなぁ。
って待てよ。もしかして長曾我部様があの二人を引き裂いて呪いを受けたとかって話なのかな。そうじゃなきゃここから呪いなんて物騒なものに発展していく気がしない。見た感じそんなゲスそうには見えないけど。
長曾我部様が女性を取っちゃったのかなぁとか、そんな決定的なシーンは見たくないなぁとか、適当なことを考えているうちにも、場面はどんどん切り替わって行くが、男性と長曾我部様が良い上司と部下であること以外特に女性が関わるシーンが出てこない。と思ったら、突然場面が重々しいものに切り替わった。

二人が膝を突き合わせて囲炉裏を囲んでいる。ひとつ屋根の下でドキドキな展開かと思いきや、流れる雰囲気はとても深刻そうである。沈痛な面持ちで何かを訴える女性に対して、男性は困り果てたように頭をかく。これはいったいどういう展開だろう。無音なのがもどかしい、何を喋っていたのかさえわかればもう少し話の筋も見えるはずなのに。頭を悩ませるうち意識がどこかへ引っ張られるような心地がする。あ、やばい。


「嬢ちゃん!おい!大丈夫か!?」


「…っ」


強く肩を揺さぶられて、目を開く。目の前にはどうしたんだと、心配そうな長曾我部様がいて。ああ、戻ってきたんだと自覚した途端激しい疲労感が襲ってきた。
私どのくらい意識を飛ばしてたんだろう。


「私、どのくらいこうしてました?」


「半刻くらいだ。微動だにしねぇから寝てんのかと思ったぜ」


「半刻…?」


『1時間くらいだ』


すかさずいなりのフォローが入る。まじか、そんなに意識を飛ばしていたんだ。ダイジェストで見てたから体感は15分ほどだったのに。


「それで、なにか分かったか?」


「その前に、いくつかお伺いしたいのですが」


急かすようにいう長曾我部様を制して、お伺いを立てる。点ばかりが撒き散らされて、線で繋げられてない。私自身もわかってないことを人に話すのは難しすぎる。


「長曾我部様が、この簪に呪いがかかっていると思ったのは何故ですか?」


「それは、俺がその被害にあっているからだ」


そう切り出して長曾我部様が語った話によると、どうやら被害というのは悪夢のことだそうだ。二週間ほど前から毎夜魘されるらしい。起きると毎回枕元にこの簪が落ちていて、折って捨てても焼いて捨てても次の日には何事もなかったように枕元に落ちているのだそうだ。なにそれこわい。いきなりホラーじゃないか。

肝心の夢の内容というのは、はっきり覚えていないらしい。魘されて飛び起きるものの、起きた瞬間に夢を忘れているせいで、何をどうすれば解決するのかも分からない。被害というには長曾我部様の睡眠が妨害されるだけというのも中途半端で余計に気味が悪い。どうしたとものかと八方塞がりだったところに私がやってきたのだと言う。随分タイミングのいい話だ。


「なるほど…」


ここで私がみた記憶の話をしていいものだろうか。でも、下手したらよく分からないうちにあの記憶の二人が断罪されてしまう。理由はどうあれ人を呪っているのだから。
けれど、本当に死んでほしいための呪いなら、なんで簪と悪夢なんだろう。
私は知識に乏しいけど、手っ取り早くいくなら藁人形に五寸釘とかがスタンダードなんじゃないの?いや、まぁ、スタンダードな呪い方ってのも意味不明な話ではあるけど。
ただ、あの記憶の中で見た二人に長曾我部様を呪うきっかけがどうしても見つけられなかったのだ。恐らくだけどあの簪に呪いを込めたのは女性のような気がする。好きな相手から貰った大事な簪に呪いを込める意味は、なんだろう。



「長曾我部様の今夜一晩を私にいただけませんか」



一か八か、リスクに飛び込んでみることにしよう。



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