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 孤児院には色んな子どもがいた。大体の子はもう名前も顔もあやふやだけど、君を除けばもうひとりだけ、はっきりと思い出せる子がいる。

 その子の名前はサラという。

 長い黒髪と赤茶の瞳が特徴的な女の子。私よりも二つ歳上で、大人しくて、真面目で、素直で、優しくて、面倒見が良くて、みんなから慕われていた。

「先生、また#ロゼ#がいないよ」

「困ったわねえ」

「あんなやつほっとこうぜ」

 無口で、無愛想で、頑固で、天邪鬼で、規則を破りがちな私は、誰から見ても扱いづらかったと思う。表立って嫌がらせされることはなかったけど、陰口を言われていたのは知ってる。誰も積極的に関わろうとしなかった。だけどサラは違った。


「#ロゼ#、また豆のスープ残したのね」

「……」

「好き嫌いしたらダメなんだからね」

「うるさい」


 そう言うとサラは困ったように笑う。いくら邪険にしても、なにかと話しかけてきては世話を焼こうとする。そういうところは、少しだけ君に似ていた。


「#ロゼ#? うなされていたけど、大丈夫?」


 夜中。目を覚ますとサラが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。私とサラはいつも同じベッドだった。


「怖い夢でも見た?」

「べつに」

「見たんだ」

「見てない!」


 かつて私は、毎晩、同じ夢を繰り返し見ていたことがあった。誰かが私を置いていく夢。遠ざかる背中。足音。夢なのに嫌に現実味を帯びていて、五感は働いているはずなのに、手足は氷漬けにされたみたいに動かない。「待って」って叫びたいのに声が出せないのだ。次第に去っていく誰かの姿はぼやけて、曖昧になっていく。ただ置いていかれるという恐怖と絶望が、真綿になって私の首を絞める。少しずつ、寒くなって、息ができなくなって、苦しくて、もう死ぬんだって思った瞬間に目が覚める。そういう夢だ。

 夢から覚めた直後は暫く身体の震えと冷や汗が止まらない。怖い夢なんて見てない、なんて強がりだって、誰が見てもわかる。勿論サラも気づいていたはずで、それをみんなに言いふらすことだってできたはずなのに、一度だって子どもたちの間で噂にならなかったのは、ひとえにサラが誰にも口外していなかったからだろう。


「もう大丈夫だよ」

「……は?」

「わたしがそばにいるから、もう怖いの来ないよ」

「別に怖くないって」

「うん、じゃあもう寝よう」

「……」

「どうしたの? 寝ないの?」

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