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地下都市のある場所に人影があった。服装から察するに貴族であることが分かる。しかし、フードを深く被っており顔が認識できない。
貴族は特に何かするという訳でもなく、ただそこに居ることが目的であるように立っていた。元々、人気のある通りとは外れた道であり、この貴族を見た者はいない。むしろ見られないようにしているかの如く、ひっそりと佇んでいた。
そして、どれくらいかすると髪を結いあげた男が駆け寄る。それに気が付いた貴族は応えるようにフードを脱いだ。
街灯の小さな光によって照らされたその顔は中世的な女性のもので、ここで暮らす者は知っている顔―第7位始祖の一人である名前であった。
「意外と早かったね、ラクス」
ラクスと呼ばれたその吸血鬼は呆れるように、少し背の低い名前を見下ろした。
「何なのあの伝言、レーネも知らないって言ってたし」
名前に敬語を使わないラクス。他の吸血鬼が見れば無礼なことに見えるかもしれないが、名前は例外である。名前自身がそれを望み、命令したため彼女に敬語を使う者は末端の者、もしくは素で敬語を使っている者であろう。
それゆえ、名前は他貴族から『はぐれもの』と呼ばれている。
「そもそも、なんで外に行くわけ?」
名前がラクスを呼び出した訳というのは「外に行くから一緒に来て」というもので、レーネを通じてラクスに伝えてもらったのだが、詳細というものを何も言わなかったのだ。
名前はくすり、と笑うとラクスの手を引いて外に通じる道を歩み始めた。
「んー簡潔に言うと、逢引?」
「は?」
ラクスは気の抜けたような声をあげた。
「ほら、会いたくてもさ他の目が気にならない?私は慣れてるけどラクスは違うだろうからね。私の屋敷に呼んだら従者が煩いし、私がラクスのところに行ってもさ、曲りなりにも貴族だからね・・・・色々言われるし」
だから、と名前は続ける。
「クルルにデートのために外に行きたいって言ったら許可されたんだ。それで、レーネにラクス借りるよって伝言頼んだだけ。面白そうってクルル言ってたな」
と微笑みながら名前は告げる。
外は真っ暗で、時間的には午前2時くらいであろう。名前はラクスの手を引き近くの森林に向かった。
ラクスは名前に引かれるがまま歩くも、すでに数回転びかけている。夜目が効くと言われている吸血鬼でも転びかけるほど足元が悪い。
ラクスは少し文句を言っているが名前は曖昧に返すだけで、何を考えているのか分からない。
「ほら、見えてきた」
名前が指すその先には月の光が木々の間から差し込んでおり、一種のステージのような輝かしい場所があった。よく見ると、足元は木屑ではなく芝生になっており、ラクスは珍しいと声を漏らした。
こっち、と名前は彼の手を引き、その月の光が作り出したステージに寝そべった。ラクスもつられるように彼女の隣に腰を下ろす。
「ここ、静かでしょう?誰も来ないから私だけの特等席」
「それ、俺に教えて良かったわけ?」
「いいの。今日からは2人だけの場所」
そう言って名前は体を起こし、ラクスにもたれ掛かった。
「恋人らしいことでもしようかラクス」
「例えば?」
にやり、と笑みを浮かべるラクス。それに応えるように名前はラクスの唇に自分のそれを合わせた。
ゆっくりと離れ、ラクスに挑発的な笑みを向ける名前。
「こういうこと、とか」
「へえ、そういうことしちゃうんだ」
「ダメ?」
「いや」
それを合図に再び唇を合わせる2人。深く、互いの存在を確かめるように。
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