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 チリン、チリンとドアのベルが鳴る。日は厚い雲に覆われており、朝であるのに少々暗く感じる。
 私は昨日とは打って変わって朝から起きており、今行くと返事をしながらドアと開いた。
 外にはエルリック兄弟が待っており、早くしろという目で私を見る。少しくらい待てないのか、と思いながら家に鍵をかけた。
 タッカー氏宅に着くと空は先ほどよりも曇っており、エドワードは雨が降りそうだと呟いた。


「こんにちはー。タッカーさん、今日もよろしくお願いします」


 アルフォンスは中に居るであろうタッカー氏に声をかけた。しかし、返事はない。


「あれ?誰もいないのかな。タッカーさん?」


 エルリック兄弟とともに私も家の中に入る。
 中は物音ひとつ聞こえず誰もいないように感じる。そして、何か嫌な予感が心に浮上する。
 奥へ奥へと入っていくと、研究室として紹介された場所にタッカー氏は居た。


「なんだ、いるじゃないか」
「ああ、君たちか」


 タッカー氏は、にやっと笑みを浮かべる。そして、光の入らない部屋の奥を見ながらエドワードたちに告げる。


「見てくれ、完成品だ」


 エドワードは戸を大きく開いた。そのおかげで外の光が中まで入り込む。照らされた先には犬よりも少し大きめの合成獣が存在していた。


「人語を理解する合成獣だよ」


 誇らしげに告げるタッカー氏。エドワードとアルフォンスは興味津々に近づいて行った。
 私はそれを見たことがあった。否、作ったことがあった。あれは失敗作だった。
 昔の記憶がよみがえる。土埃と血の匂い、悲鳴が響く建物の中。私はあそこで、笑っていた。
 エドワードらは少し興奮しながら合成獣に名前を呼ばせていた。


「信じらんねー。本当に喋ってる・・・・」
「あー、査定に間に合ってよかった。これで首がつながった。また当分研究費用の心配はしなくてすむよ」


 よかった、よかったとタッカー氏は言う。


「えど、わーど、えどわーど・・・エドワード・・・・・お、にい、ちゃ」


 合成獣の声でエドワードは顔をこわばらせる。私はそれを見て目を伏せて背を向けた。
 笑顔で庭を駆けるニーナと、それに戯れて遊ぶアレキサンダー。2人の面影が残る合成獣。自然とそれは導き出された。


「タッカーさん。人語を理解する合成獣の研究が認められて資格とったのいつだっけ?」


 エドワードは抑揚のない声で言った。冷たく、響く。タッカー氏は思い出すように言った。


「ええと・・・・2年前だね」
「奥さんが居なくなったのは?」
「・・・・2年前だね」
「も一つ質問いいかな」


 エドワードは間をおく。すべてを知った彼は、睨みつけながらタッカー氏に問う。


「ニーナとアレキサンダーどこに行った?」
「・・・・・・・・・君のような勘のいいガキは嫌いだよ」


 タッカー氏の発言の直後、衝撃音が部屋に響いた。 
 タッカー氏の胸ぐらを掴み壁に押し付けるエドワード。激しい衝撃音とアルフォンスがエドワードを止める音が室内に響く。


「この野郎・・・やりやがったなこの野郎!!2年前は手前の妻を!!そして今度は娘と犬を使って合成獣を錬成しやがった!!」


 エドワードの話を聞いてアルフォンスは合成獣、元はニーナとアレキサンダーであったものを見つめる。


「そうだよな、動物実験にも限界があるからな。人間を使えば楽だよなあ、ああ!?」
「は・・・何を怒ることがある?医学に代表されるように人類の進歩は無数の人体実験のたまものだろう?君も科学者なら・・・・」
「ふざけんな!!こんな事が許されると思ってるのか!?こんな・・・・・人の命をもてあそぶような事が!!」


 怒りの込めた大声でタッカー氏の言葉を遮るように言うエドワード。それを聞いたタッカー氏は乾いた声で笑った。笑い声は音のない室内によく響き不気味な雰囲気を醸し出している。


「人の命!?はは!!そう、人の命ね!鋼の錬金術師!!君のその手足と弟!!それも君が言う『人の命をもてあそんだ』結果だろう!?」


 タッカー氏はエドワードを嘲笑い、自分の言い分が正しいと主張する。それを聞いたエドワードは怒りと興奮を表に出し、本能のままにタッカー氏を殴った。


「ちがう!」
「ちがわないさ!目の前に可能性があったから試した!」
「ちがう!」
「たとえそれが禁忌であると知っていても試さずにはいられなかった!」
「ちがう!・・・・オレたち錬金術師は・・・・・・俺は・・・・!」


 タッカー氏は殴られ続け声もまともに発せない。我を忘れ殴りつづけた拳にはタッカー氏の血が付いていた。再び殴ろうとエドワードは拳を振り上げたがそれはアルフォンスに拒まれ、タッカー氏に当たることは無かった。


「兄さん、それ以上やったら死んでしまう・・・・・それに・・・・ニーナとアレキサンダーが見てる」


 それを聞いたエドワードはやっと力を抜いた。
 息の切れたタッカー氏は悪態をつくようにエドワードを笑った。


「はは・・・・きれいごとだけでやっていけるかよ・・・・」
「タッカーさん。それ以上喋ったら今度はボクがブチ切れる」


 アルフォンスの怒りを含んだ言葉は重く、タッカー氏は口を閉ざした。
 エドワードはニーナとアレキサンダーを悲しみの表情で見ると、目を逸らし部屋から出て行った。恐らくロイあたりに連絡でも取るためだろう。もしくは自分の頭を冷やすために雨に打たれに行ったのだろう。
 アルフォンスがニーナとアレキサンダーを撫でながら謝罪をし始めた時、私はタッカー氏の傷の処置をし始めた。
 アルフォンスは優しく撫で終えるとエドワードを追って部屋を出て行った。
 その場に残されたのは傷だらけのタッカー氏と真顔無言の私だけであった。
 沈黙が続く中、私はゆっくりと口を開いた。


「私は過去にイシュヴァールにて生体実験を目にしたことがあり、それを手伝ったこともありました」


 治療の手を止め立ち上がり、タッカー氏を見下ろす。タッカー氏は眼帯に隠されていない左目の真っ青な瞳に恐怖を感じた。


「実験に使った命はすべて、背負わなければならない。私にはその覚悟がある。だけど、あなたにその覚悟があるの?」


 感情のない声がタッカー氏の頭に響いた。冷たく言い放たれた言葉は彼の心に大きく突き刺さる。
 私はそればかりを言うとタッカー氏から離れ、ニーナとアレキサンダーに近寄る。するとあそぼうと言いながらすり寄ってくる。
 私は憐れみながら屈み、彼らを抱き込んだ。


「完全に定着してしまった魂同士は引きはがすことができない。同じように体と魂を切り離すことも不可能に近い。やれないことはないが、崩壊する可能性の方が高い。私にはどうすることもできない」


 小さく呟くと、大丈夫とでも言うかのようにニーナとアレキサンダーは私の頬を舐めた。


 
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