命の恩人02


蘇ったのは断片的な記憶だけ。

何故私のアパートを知っていたのか分からないけど、彼に運ばれて部屋まで来たこと。

腕の怪我を見るためなのか、服を脱がされたこと。

意識が朦朧とする私を組敷き、身体を伝う血を舐めとり、傷口に唇で触れられたこと。

身体が異常に、熱かったこと。

裸の彼が私を抱きしめてくれたおかげで、その熱さが和らいだこと。

その後は…――――分からない。



「オレ、言った?名前」

「分からない…けど、少ししか思い出せない」

「忘れろ。思い出さない方がいいこともあるしな」

「どういう、事?」

「怖かったんだろ?そんなの、思い出す必要ないだろ…もう、忘れろ」



そう言って、また顔を近づけて今度は私の首元に顔を埋めた。

生温い舌がツーっと身体を這っていく。

また身体が痺れて、口から吐息が漏れる。

ダメだ、流される。

そもそもこうして裸でいる状況がオカシイ!



「やめ……は、離れろー!!」

「イテ!」



思いっきり蹴り上げた足が、お腹にヒットして私から降りた彼。

起きたときよりも暗くなった外から、月明かりが射し込んでいて、長い時間寝ていたんだとようやく気がついた。



「何すんだよ…たくっ」



私の命の恩人である彼、ユウセイは…髪の毛をポリポリ掻きながらベッドから立ち上がる。

シュルっと私の顔の前を横切ったものに息が止まりそうになった。

何事もなかったかのように、ズボン履いてるけど。

何事もなかったかのように、頭触ってるけど。



「え、あなた……何、ソレ…」



人間だと疑わなかった。

だけど、聞いたことがある――――そういう存在がいるってこと。

どういう姿なのかは知らなかったけど。

頭から生えて立っている耳。

お尻から生えてる長い尻尾。

金色に光っている瞳。

人間のようで、まるで狼のようなその姿。



そう、彼は…――――半獣の人間だった。

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