四苦八苦 弐



町は人が多く活気があった。

当たり前だが、スマホなんてない時代。だから歩きながら画面を見てるなんて光景が日常茶飯事だったゆき乃にとって、人のいろんな顔があちこちで見える光景がとても新鮮で、また不思議だった。

道を歩けば、「おいしいよ〜」「お嬢さん」と声が掛かり、全部の店につい入ってしまいそうになる。

そんなにお金は持っていないので、普段のお礼に義勇への土産と何か美味しい食べ物でもと甘い匂いのする店へと足を運んだ。

ゆき乃の鼻を甘く誘った一軒の甘味処へと入る。

その途端に声をかけられ、ゆき乃は焦りながらも目に付いた馴染みのあるおはぎを頼んだ。

残りわずかだったので、きっと美味しいんだろう。

土産用と自分用とで数個買い、包んでもらったものを抱えて嬉しそうに外へと出た。

その時に、不意に足を取られ体がグラっと傾いた拍子に近くを歩いていた人にぶつかってしまった。



「キャッ……!」



慣れない草履で上手く体勢が取れず、買ったばかりのものを咄嗟に抱え直した。

尻もちをつく、と目を閉じたゆき乃だったが、腰に支えが入り体は地面に落ちることなく立っている。

誰かが助けてくれたのだ。

安心して目を開けたゆき乃に、「大丈夫かァ」と低い声が聞こえ、彼女の目に映ったその顔に危うく土産を落としてしまいそうになった。

顔に幾つもの傷があり、目尻がつり上がった男。

叫ばなかっただけ偉いと自分を褒めたくなった。



「ボケっと歩いてんじゃねぇぞォ」

「ご、ごめんなさい!」

「ほらしっかり立てェ!」



まだ足がちゃんと地に着いていなかったゆき乃は急いで体勢を整えた。

めちゃくちゃ怖い顔!と思ったが、助けてくれたのだからお礼は言わないと、と思い、「ありがとうございます」と思い切り頭を下げた。



「気にすん……あァ?」

「え?」

「お前それ、」



助けてくれた男が急に口を閉ざすから、何だろうとゆき乃は顔を上げてその傷男を見た。

目を見開きつつも、少し目を泳がせて彼女を見ている。

その視線をおったゆき乃は慌ててしゃがみ込んだ。

どこでどうなったか分からないが、着物が着崩れてしまったのだ。

帯が落ちかけ裾がはだけてしまっている。

ゆき乃は咄嗟のことで身を屈めてしまったが、胸元に抱えていたおはぎの包みは見事に地面に落ちてしまった。

どうしよう。

焦りから何も動けずにいると、さっきの男が近づいてきて「茶屋に入って直せ」と言ってきた。

だが、彼女は到底自分で着直す自信がなかった。

着崩れた時、義勇がいれば少し手を貸してもらっていたのだ。

普通なら男にそれを頼むこと自体おかしな話なのだが、ゆき乃にはこの時代の普通は通用しないし、頼れるのが義勇しかいなかったからそうしていた。



「自分で、直せません…どうしよう……」

「はァァ?何でだよ」

「……」

「…チッ」



物凄い舌打ちが頭上から聞こえて、もう涙が出そうだった。

騒ぎを見ていた通行人の視線も気になるが、誰も助けてくれそうにない。

きっとそこにいるのがゆき乃だけなら誰か手を差し伸べてくれたかもしれない。

だが、側にいる人物が悪かった。顔に傷があり、刀を帯刀し、さらには背中に「殺」という文字を背負っていたのだから誰も近づこうとは思わなかった。



「動くんじゃねぇぞォ」



男はそう言うと、落ちていた包みとゆき乃を簡単に抱き上げ風の如くその場を離れた。

咄嗟のことにゆき乃は声を出すこともできず、ただ目の前にあった彼の服にしがみついていた。

人を抱えて走ってるスピードではない。

車で走ってるような速度で移動する彼を腕の中から見上げ、緊張と恐怖で高鳴る鼓動に胸を押さえた。

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